じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 7月30日の岡山は午前中を中心に大雨となり、午前6時台から10時台にかけて、それぞれ、10.0、10.0、1.0、26.5、10.5ミリの強い雨が降り、1日の降水量は60.0ミリに達した。今年は例年より梅雨明けが早く、7月の少雨傾向が心配されたが、この雨で7月30日までの合計雨量は158.5ミリとなり、平年値の160.9ミリにほぼ並んだ。

 写真は、午前10時すぎの様子。この日はたまたま胃検診(バリウム)があり、大雨の中を文学部と保健管理センターを往復せざるを得なかった。写真左上にあるようにこの時間帯の1時間あたり雨量では、岡山は全国第二位となった。雨の少ない岡山で降水量Top10にランクされるのはきわめて珍しい。


2013年07月30日(火)

【思ったこと】
130730(火)日本行動分析学会第31回大会(4)健康行動への行動経済学からのアプローチ(2)

 昨日に続いて、7月27日(土)午前に行われた、

27日午前の学会企画シンポ:「健康行動への行動経済学からのアプローチ」

のメモ・感想。

 2番目の話題提供の後半では、意思決定のバイアスを利用したり、「サイン効果」、「報酬量効果」、「領域効果」などを活用したいくつかの健康支援方法が紹介された。(Tucker, Simpson, & Khodneva, 2009)。原著にあたってみたいと思うが、なかなか興味深いものがあった。例えば、「健康行動についての情報を将来の利益ではなく損失と受け取られるようにフレーミングする」というのは、かなり有効な方策であると思う。心理学の一般的な研究であれば、「健康行動は将来の利益であると思うか? 損失回避であると思うか?」といった質問紙調査を行って、「損失回避であると思う」と答えた人のほうがより熱心に健康行動を行っていると結論づけて終わってしまいがちであるが、行動分析学であれば、これは、「好子出現の随伴性」を「好子消失阻止の随伴性」に転化する手法の有効性まで示すことが求められるであろう。

 ほかに、覚醒剤中毒【依存】の患者を対象とした「ワーキングメモリー(Working Memory)のトレーニング」というのがあった(Bickel, Yi et al., 2011)。これは、遅延割引理論に基づくもので、実験研究によれば、ワーキングメモリートレーニング(数唱、逆唱、...)を実施した群のほうが、価値割引率が有意に低下するということに基づくものであるという。簡単に言えば、ワーキングメモリーを向上させたほうが衝動性が抑えられるというようなことになるが、うーむ、これをもって、依存症の治療に有効というところまで言えるのかどうかは分からない。

 話題提供の最後のあたりでは、ルール支配行動を重視したパフォーマンスマネジメントの理論と、遅延価値割引理論に基づく健康支援が比較考察されていた。このWeb日記や私の拙著でも何度か取り上げているが、マロットらのパフォーマンスマネジメントの理論では、60秒基準を超えて成立する「間接効果的随伴性」はルール支配によるものと考えられている。そのさい、「よく守られるルール」と「守りにくいルール」の違いは、好子の大きさや出現確率などによって規定されるものであって、遅延の長さはあまり問題にされない。動物を用いた、比較的短時間の中で検討されている遅延価値割引の理論は、人間の「一年後の合格をめざした受験勉強」、「老後の生活のための資産形成」、あるいは「生活習慣病予防のための日々の健康増進行動」などは、そのままでは適用できないと考えることになる。話題提供の中でも、たとえ「遅延」があっても大きくて確実な結果ならば先送りされないという例として、「5年後に確実に死に至らしめる薬を飲む人はいない」、「1ヶ月後にほぼ確実に治るならば手術を受ける」などの例が紹介された。但し、両理論は完全に対立するものではない。例えば、子どもが遅延のあるルールに従った行動ができるかどうかということは「衝動の抑制」にも関連しており、この面では、近年の遅延価値割引研究と大きく矛盾しないという結論であった。

次回に続く。