じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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今年はネコ年(13)黒猫とブチ猫の対決?
 元日の日記1月8日の日記に、白黒のブチ猫と黒猫の写真を掲載した。これら2匹は比較的仲がよいように見えるが、オス同士ということもあって、縄張り争いをすることも少なくない。今回掲載の写真は、昨日の昼に見かけた対決?風景
  1. 黒猫が怖そうな目つきで近寄ってきた。
  2. それを注視するブチ猫。
  3. 両者、にらみ合う。
  4. ブチ猫の気合いに降参し、お腹を出して寝転がる黒猫。



3月12日(金)

【思ったこと】
_a0312(金)[心理]タダでもうける?! “無料ビジネス”の舞台裏(2)利用料金がタダであることの効用

 昨日に続き、3月10日放送のNHKクローズアップ現代

タダでもうける?!“無料ビジネス”の舞台裏

という番組の感想。

 番組の前半で紹介された、行動経済学者・アリエリー教授の実験は以下のようなものであった。
  1. ブランド物のチョコレート(1個27円、但し日本円に換算した価格であり以下同様)と一般のチョコレート(1個2円)の2種類のチョコレートを別々のお皿に並べ、お一人様1個限定で消費者に選択させた。すると70%が27円の高級チョコを選択した。
  2. 次に、上記のチョコレートの価格を1個26円と1個1円に値下げしたが、消費者の選択比率は7:3で変わらなかった。この傾向は、“価格差が同じままなら消費者の行動は変わらない”という従来の経済学の予想する通りの結果となった。
  3. ところが、安いほうを1個ゼロ円、高いほうを25円に値下げすると、価格差が変わらないにもかかわらず、70%がゼロ円のほうに飛びついた。
  4. 従来の経済学では無料を1つの価格としてしか捉えていなかったが、じつは(無料は)全く特別な存在。無料が人々を魅了する力は強力で、無料に心を奪われて分別を無くし、不利な選択さえしてしまうことがあるほどだ。

    出典は以下の文献と思われるが、有料の閲覧のため拝読していない。念のため。
    Kristina Shampanier, Nina Mazar, Dan Ariely (2007). Zero as a Special Price: The True Value of Free Products. MARKETING SCIENCE, 26(5),742-757.
 番組の時間的制約上やむを得ないのかもしれないが、、ここに紹介された実験結果だけから、「無料が人々を魅了する力は強力で、無料に心を奪われて分別を無くし、不利な選択さえしてしまうことがある」と一般化してしまうのは明らかに無理がある。

 まず、上掲の実験結果だけでは「人々が不利な選択さえしてしまう」ことは示されていない。それと、1つの商品を1個限定で選択することと、ネット上の無料サービスを継続的に利用するということが、同一原因で説明できるとは考えにくい。「無料」という言葉でひとくくりに一般化するのではなく、個々の状況や文脈の中で具体的な分析を進める必要があると思う。




 ここでいったん脱線して、上掲のチョコレート選択の場面について考えてみよう。

 行動分析学の立場で捉えるならば、物を買うということには、通常2種類の随伴性が関与する。
  1. 好子出現の随伴性:商品を手に入れた直後に出現する結果。
    • それを消費すること自体がもたらす結果。食べ物であれば味など
    • 人から注目されるなどの社会的好子。ファッション系の商品に多い。
    • それを使うことによって新たに出現した変化。道具を買った場合は、利便性の拡大や生産量増加など。
    などなど。
  2. 好子消失の随伴性:商品と引き替えに財布の中からお金が消えていく。
    • 財布の中のお金が減る(あるいは預金残高が減る)ということは、他に欲しい物(=好子)が手に入れられなくなるとか、楽しみの機会(旅行やレジャー)が奪われるという変化ももたらす。
 このうち1.の前者は行動を強化、2.の後者は行動を弱化する働きがある。普通は、購入行動に対して2.が弱化的に働き、無制限に物を買う行動は強化されない。クレジットカード利用で消費が増えるのは、2.の結果が遅延したり(←クレジットカードを利用すれば購入直後に財布の中からお金が消失することはない)、分割されるため(←分割払いにすれば、1回に消失する好子が小さくなる)である。購入と同時にポイントを付与したり、おまけをつけるのも、2.の弱化の力を低減させて購入行動を強化しやすくする効果がある。

 ある商品の価格が無料になるということは、要するに、2.の随伴性を外すということである。少なくとも上掲のような実験だけでは「無料には人々を強力に魅了する力がある」とは言えない。有料の時に存在していた好子消失の随伴性が存在しなくなったことで弱化の歯止めが効きにくくなっただけのことである。であるからして、無料自体には強化力はない。あくまで、その商品自体を手に入れる行動を強化するような別の好子が不可欠であると思う。




 さて、もとの話題に戻るが、何かのサービスを継続的に利用する場合と、上記のような商品購入の場合とは、強化・弱化のメカニズムが相当に異なっているように思われる。

 例えば、無料ではなくて一定金額を支払う場合でも、「食べ放題」、「使い放題」、「乗り放題」のような行動は、かなり強化的である。これは要するに、お金を支払うという「好子消失」が、個々の行動の直後に随伴せず、弱化の働きをしていないことによるものと分析できる。テーマパークで遊具に乗る時など、そのつど料金を支払う限りにおいては「好子消失」の弱化効果が働くが、「一日券乗り放題」であれば、何度利用しても、「好子消失」が行動の直後に随伴するわけではない。ネット利用の場合も同様であり、従量制よりは契約期間あたりの定額制のほうが利用頻度は遙かに増えるはずである。




 継続利用にあたって「無料」が魅力的である別の理由として、支払い方法が面倒であること、架空請求などの詐欺に遭うリスクが少ない、関心が低くなってもほったらかしにできる(継続的に関わる義務がない)、ことなどを挙げることもできると思う。有料サービスの場合は、高額請求に巻き込まれる恐れはないかとか、クレジットカード情報が流出しないだろうか、といったリスクが伴うほか、支払いの煩わしさ自体が嫌子になることさえある。私自身の場合を例に挙げれば、私は封書で郵便を出すということが極端に嫌いであって、できる限りEメイル利用で連絡を済ませることにしている。これは、別段、切手代が有料であるから嫌だということではない。切手を買いに行く手間、郵便ポストまで差し出しに行く手間が面倒、さらに文書を印刷したり、それを封筒に入れて宛名を書くということが面倒だといった点につきる。なお、最近では「一部無料サービス」に騙されて、有料部分で高額請求に遭う被害も出ているというので、申込みには十分な注意が必要であることは言うまでもない。

 次回に続く。