じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 立命大のキャンパス内禁煙対策

 立命大・衣笠のキャンパス内では、受動喫煙防止の大きな幟が目立つ。「指定喫煙所」のことを「シェルター」と呼んでいるところも興味深い。私のところでも、歩行喫煙禁止を呼びかけるポスターや立て札を設置しているが、まだまだ違反者は絶えず、吸い殻のポイ捨てが目立つ。



8月27日(木)

【思ったこと】
_90827(水)日本心理学会第73回大会(2)心理学における性格概念の用法(1)

大会2日目の午前中は、9時30分から開始される「認知加齢」のワークショップに参加する予定であったが、会場に40分ほど前に着いたのでプログラムを再度チェックしていたところ、渡邊芳之氏の

●心理学における性格概念の用法

という小講演が9時から始まっていることに気づき、渡邊氏の講演というなら最優先で聴かなければと、急いで会場を移動した。けっきょく数分の遅刻にはなったが、ほぼすべての内容を拝聴することができた。

 これまで、渡邊氏の講演というはなかなか拝聴する機会が無かった。実際、ご本人によれば、学会の年次大会ではもっぱらコメンテーターに徹しており、講演者をつとめるのは久しぶりとのことであった。講演開始に間に合ってよかったよかった。

 ご講演は、性格心理学の過去を概観し、今後の性格概念の用法を論じるという全体をコンパクトにまとめたもので、ご自身の研究内容はもとより、この方面の研究の動向を把握する上で大いに勉強になった。なお、今回のご講演の内容はいずれ本として刊行されるとのことである。




 講演ではまず、性格、気質、パーソナリティなどについての定義、心理学史が概観された。20世紀にアメリカに渡り、科学的心理学一般の目的とされる「性格の記述」、「行動の予測」、「行動の説明」の3点が重視されるようになった。性格は独立変数としての用法と従属変数としての用法がある。前者は、行動の差違を性格の違いとして説明する場合、後者は、発達心理学などで性格形成の要因をさぐる場合がある。

 私見になるが、性格概念に限っては「行動の制御」ということはあまり言われない。「性格を変えなければダメだ」とか「もっと根性を鍛えろ」いうように叱咤激励する場合も、結局は行動を変えて、結果として(従属変数として)性格の変容を測定しているのに過ぎない。ただし、行動を変えるためのプログラム策定にあたって、それぞれのコンポーネントの重み付けの参考として性格の違いを考慮することはありうる。薬の処方箋において、体調や体質により薬の種類や量を変えるのと同じようなものである。

 ご講演の話題に戻るが、「性格の記述」というのは要するに情報の縮約に有用であるということ。問題となるのは2番目の「行動の予測」である。ひとくちに予測といっても、「状況を限定した予測」(→継時的安定性)と「状況を超えた予測」(→通状況的一貫性)がある。後者についてはMischel(1968)により提起された「一貫性論争」があり、その後1980年代に至るまでたくさんのデータが集められたが、けっきょく、「通状況的一貫性」を支持するようなデータはほとんど得られず、ほぼMischelの提起どおりとなった。その結果、1980年代以降は、相互作用論、つまり、内的過程と状況との相互作用の結果としての首尾一貫性に焦点があてられるようになり、もはや通状況的一貫性は仮定されなくなった。しかし相互作用論による大きな発展はなく、性格心理学は論争以前のままであり、性格心理学から発達心理学に関心を移していった研究者も居たという。。そういえば、昨年の学会でもコヒアラント・アプローチの話題が取り上げられたが、これなども性格心理学ではなく、well-beingや高齢者の生きがいに焦点が向けられていた。




 では、通状況的一貫性論争はどう決着させればよいのだろうか。「本来、理論的構成概念(観察に還元されない概念)であるべき性格概念(通状況的一貫性を前提とした性格概念)を、観察に還元される傾性概念として実証しようとしたことに無理があった、つまり、答えの出ない「疑似問題」に取り組んでいた、というのが渡邊氏のご主張であると理解した。要するに、行動観察によって得られたデータというのは、本質的に観察状況に依存し限定されるので、そこからは通状況的一貫性は証明できない、行動観察に基づく性格概念は傾性概念であるというわけだ。

 このあたりで若干疑問に思ったのは、行動観察に依拠する限りは理論的構成概念にはなり得ないのか、例えば実験的方法でノイズ(誤差)を排除すれば普遍性のある法則にたどり着けるのではないかという点。また、全く見方を変えた時の別の疑問として、上記のように区別は、性格心理学以外の心理学一般の研究にも同じように当てはまるのではないかという点があったが、これについてはまた後日取り上げることにしたい。



 次回に続く。