じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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§§  演習室の窓越しに眺める霧の半田山。「演習室からの絶景100選」などという企画があったら、選ばれても良さそう。


02月27日(金)

【思ったこと】
_90227(金)[心理]言葉はどう生まれたのか?

 夕食時にNHKサイエンスZERO「ヒトの謎に迫る(5)言葉はどう生まれたか?」を視た。

 番組記録サイトによれば、言葉がどう生まれたのか探る仮説には、
  1. もともと身振りから単語が生まれ、文法ができたという「身振り起源説」
  2. 歌から文法が生まれ、単語ができたという「歌起源説」の二つだ。
があるという。

 私自身はこれまで、1.に近い説、つまり、身振りや発声があるまとまりをもって単語を作り、その組み合わせのルールが伝播、伝承する形で文法を形作っていったという説を信じていたが、今回登場された理化学研究所・岡ノ谷氏は、ジュウシマツやクジラの鳴き声の解析を通じて、まず、一連の行動(発声)が流れのように生成され、それが次第に分節化して単語を形成していったというような説を唱えておられた(あくまで番組を視聴した範囲での理解)。

 岡ノ谷氏の「歌起源説」はなかなか興味深いものではあったが、「歌」のような鳴き声が発せられること、それらが一連の流れを持っているというだけでは「まず文法ありき」という証拠としては不十分であろうとの印象を受けた。さまざまな動物の行動にはもともと、言語に限らず、一連の動作にはある種のまとまりや流れがある。ツクツクホウシも一定の鳴き方をするが、だからといってセミの鳴き声に文法があるとは言えない。

 もっとも、コメンテーターの佐倉氏(東京大学大学院情報学環)の反論も、わざとスキを見せているようにも思えた(←ヤラセっぽいなあ)。佐倉氏、あるいは、川合伸幸氏からの「反論」を、あくまで長谷川の記憶している限りでまとめてみると、
  1. 「歌起源説」では身振りによるコミュニケーション、あるいは「左脳=言語脳」の進化をうまく説明できない。
  2. ヒト、クジラ、鳥類は系統的にはかなり離れている。それらの類似性を強調しても、言語行動の進化をうまく説明することができない。
  3. 鳥類には表情がない。
  4. 鳥類は抽象的な認知機能を持たない(←長谷川の記憶のため不確か)。
 というようなことになるかと思うが、例えば4.に関しては鳥類でもかなり高度な弁別(例えば、ピカソとモネの絵の区別)や記憶ができることが行動分析学の諸研究から知られている。

 ヒト、クジラ、鳥類においてオペラント行動の原理が同じように働くのであれば、同じような行動が形成できたからといって何ら不思議ではない。系統的に近いか遠いかということはあまり問題ではない。

 けっきょく、オペラント行動とレスポンデント行動の区別(←鳥のさえずりはかなりの程度でレスポンデント行動であるように見える)、さらに、スキナーの言語行動理論の基本であるマンドとタクトの区別を抜きにしては言語行動の起源の問題は語れないのではないかというのが、番組をざっと拝見した限りでの印象であった。もっとも、番組に登場されていた川合伸幸氏といえば、実験的行動分析の教科書として名高い『メイザーの学習と行動』(1996)の翻訳者のお一人でもあり、当然、そのあたりのことは考えておられるはず。一般向けの番組ということで、あえて、オペラントや「タクトとマンド」に触れられなかったのであろう。

 番組の後半では、三浦麻子氏が登場されていたが、うーむ、短い放送時間のなかで、三浦氏の御研究まで紹介するというのは番組としてはちょっと欲張りすぎで消化不良になりそうな気がした。

 今回の番組は、もともと日曜日の午前0時から(=土曜日深夜)が本放送であり、夕食後に視たのはその再放送であった。録画をしていなかったので残念ながら番組の詳細を思い出すことができない。いずれ再々放送があった時には、そこで語られていた論点をもう一度確かめてみようと思っている。