じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 アメリカフウ(モミジバフウ)の並木の根元で生育する苔。背景は時計台・図書館。


02月6日(金)

【思ったこと】
_90206(金)[心理]岡山市のゴミ有料化で何が変わるか(4)ごみ袋の無料配布と追加購入を反復するという技法

 2月4日の日記の続き。

 まず、2月5日(木)の朝、有料化後2回目の収集の時の様子であるが、ゴミの総量、指定袋を使わない比率、収集日を守らない行為などについては、2月2日(月)の時と比べて特に変化は認められなかった。定点観察ポイントの1つ、A地点では、収集日翌日の2月6日(金)早朝には、4袋が放置されていた。うち2袋は指定袋に入れられており、おそらく、収集作業後に新たに持ち込まれたものと思われる。残り2袋は、指定袋を使わなかったために収集を拒否された袋であった。

 なお、2月4日(水)の夕食後の散歩時に、このA地点を通ったところ、たまたま、自転車に乗ったおじいさんが、この場所にゴミ袋を持ち込もうとしているのを目撃した。ゴミ袋自体は指定袋であるが、収集日前日ということで、私に見つかって少々、きまり悪そうにしていた。若干不思議に思ったのは、そのおじいさんはそのあと自転車で、西方向の妙善寺方面に帰っていたことであった。あちらのほうは、町内会の単位が異なっている。なぜわざわざ、自転車カゴにゴミ袋を積んで、別の町内会の収集場所まで持ち運ぼうとしたのか、よく分からない。ご自身の最寄りの収集所は収集日前夜にゴミ袋を持ち込まないように厳重に監視されているため、収集日以外の持ち込みが常態化しているこちらのA地点まで運んだものと思われるが、なぜそんなにまでして前夜に運ばなければならないのかがよく分からない。




 さて、1月31日付けの朝日新聞記事によれば、岡山県内各市町村では、倉敷市、玉野市、高梁市、矢掛町、勝央町、奈義町を除くすべての市町村で、有料化をすでに実施、もしくは今年度中の実施を予定しているとのことであった。有料ごみ袋の価格は、45リットル入りで12円から52.5円、ほかに、早島町や鏡野町のようにシールで対応しているところもあるとのことだ。

 そんななかで面白いと思ったのは、笠岡市の対応である。笠岡市では年度初めに各世帯へ計90枚〜140枚を無料配布。この袋を使い切った後は、30リットル入りで70円の袋を購入しなければならないという仕組みになっているという。

 この「ゴミ袋無料配布→足りなくなったら追加購入」という方式は、「すべて有料」に比べてどんな効果があるのだろうか。記事によれば「指定袋を無料でもらった後には、買うことによる抵抗を感じる人が多い。それが無料配布の袋にごみを収めようという気持ちにつながっている」(笠岡市環境課・若林・主任主事談)というご説明であり、これはなかなかよい方式であると思った。

 ゴミ袋を完全有料化してしまった場合、確かに、実施当初は大幅な減量化が期待できるだろう。しかし、いくら不況で生活が苦しいとはいえ、現行5%の消費税同様、1枚50円の有料袋にも次第に馴れてしまうという恐れは多分にある。実際、当該記事でも記されていたように、全国約24%の自治体では、「有料化直後はごみが減っても、時間がたつと再び増える」という「リバウンド現象」が確認されているという(東洋大・山谷教授の調査による)。そんななか、上述の笠岡市では、有料化により可燃ゴミで3割、不燃ゴミで5割の減量を達成し、かつ、維持し続けているというのである。

 2月3日の日記に記したように、ゴミ有料化による減量効果は、行動分析学の言葉で言えば、
  • 好子消失による弱化:指定ごみ袋をたくさん使うとそれだけお金が減る(=好子消失)ため、ゴミをたくさん出すという行動は弱化される。
  • 好子消失阻止による強化;従来、可燃ゴミの一部として捨てていた紙類などは、無料収集対象である資源ゴミとして分別して捨てるようになる(ゴミの分別をするという行動は、指定ごみ袋使用による好子消失(お金の消失)を阻止するので、強化される)。
という行動随伴性を設定して、環境配慮行動を強化(環境に負荷をかける行動は弱化)しようという施策であると考えられる。

 しかし、1袋50円というゴミ袋の価格は、好子としてそれほど価値の大きいものではない。つまり、導入当初は、無料であったものが有料になるというコントラストだけで、好子消失が目立つものの、時間が経つと、馴化(habituation)のために、行動を強化・弱化する力が弱まってくるのであろう。

 もっとも、より厳密に言えば、これは、確立操作ではなく、有料化という行動随伴性自体の強化力・弱化力が弱いために起こると考えられる。つまり、我々はごみ袋を使う時にいちいち50円を支払っているわけではなく、普通はまとめ買いをする。よって、それをまとめて買う時にはお金という「好子の消失」が発生するが、それを使った直後に好子が消失するわけではないので、直接効果的なコントロールの力を持たない。けっきょく、無料であった時代と比べて、ゴミ袋を持ち運ぶ時の行動そのものは何ら変わりなく、直後の結果も変わらないので、ゴミ減量化に努めるという行動はちっとも強化されなくなってしまうのではないか、というのが私の考えである。

 笠岡市のケースでは、少なくとも年1回、「無料→有料」という変化が体験されるので、「好子消失の弱化随伴性」や「好子消失阻止の強化随伴性」はその分、持続しやすい。なお、「無料→有料」という変化は、単に、「お金」という「好子消失」ばかりでなく、「有料化になれば、わざわざお店までゴミ袋を買いに行かなければならない」という手間と労力が嫌子として働くことにおいても有効であろう。また、当初無料配布されたごみ袋を節約しながら使うというのは、ルール支配行動の一種であると考えられる。




 余談だが、石油ファンヒーターと、エアコン暖房のどちらが省エネルギーに繋がるのかという点も、上記と似たようなところがあるように思う。灯油を燃やすよりも、電気を使ったエアコンのほうが地球温暖化防止に役立ちそうな気もするが、節約行動という点から言えば石油ファンヒーターのほうが遙かにすぐれているような気もする。

 というのは、石油ファンヒーターの場合、ふつう、燃料の灯油はポリタンクに入れて保管し、ときおりタンクに詰め替え、足りなくなれば、近くのガソリンスタンドまで買いに行くか、配達業者から割高な灯油を買わなければならない。このことは結構たいへんな手間・労力になる。特に私の家などは、アパートの4階にあるので、18リットルポリタンクを運び上げるだけでも大変である。

 いっぽう、エアコンの場合、いくら暖房スイッチを入れていても、燃料が切れることはない。電気代は、冷蔵庫、洗濯機、照明器具などの使用料と合算して請求されるので、何時間でいくら消費したのかということが全く分からない。こうしてみると、石油ファンヒーターのほうが、行動と結果との随伴性がはっきりしており、おおきな節約効果が期待できるように思う。

 次回に続く。