じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



11月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
§§  月齢26.9の月と地球照(11月25日06時06分撮影)。先月26日にも月齢27.6の月の写真を載せているが、あの時見えていた水星は、今回はちょうど外合(太陽の向こう側)に位置している。また、冬至が近くなってきたため、先月よりも月の位置が南側(右側)にずれている。


11月24日(月)

【思ったこと】
_81124(月)[心理]日本心理学会第72回大会(49)環境配慮行動をおびやかす10匹の怪物(1)

 今回からは、大会3日目の午前中に行われた招待講演:

The ten dragons that threaten pro-environmental behavior (And how psychologists can help to slay them)
環境配慮行動をおびやかす10匹の怪物 (そして心理学者はいかに怪物を退治できるか?)
21日 10:00〜12:00
講演者 University of Victoria Robert Gifford
司会者 北海道大学 大沼 進
抄訳者 日本大学 畑 倫子


について、メモと感想を述べさせていただく。

 さて、今回のギフォード・ビクトリア大学教授講演は、グローバルCOE「心の社会性」共済の一般公開プログラムであり、講演は英語で行われていたが、日本語の通訳もついていた。

 ギフォード氏というと、日本では、

『環境心理学 原理と実践』(上下巻)、2005年7月、北大路書房

という著書(教科書)で知られているが、残念ながら拝読していない。ギフォード氏はまた、Journal of Environmental Psychologyの編集長でもあり、APAの人口・環境部門と、国際応用心理学会・環境心理学部門の会長でもあり、世界各地で持続可能性と環境心理学に関する招待講演を行ってきたそうである。というような事前情報もあったので、かなり内容の濃い講演を拝聴できると思っていたのだが、期待が大きすぎたせいだろうか、内容はイマイチ、インパクトに欠けており、少々物足りない感じがした。環境心理学の大家であるという触れ込みが無かったとしたら、どこぞの著名な心理学者が、環境問題について思いつくままに10個ほどの課題を挙げてみたという程度に受け止めてしまったかもしれない。




 そもそも、この講演のタイトルからして、少々、納得できない部分があった。原題の「The ten dragons that threaten pro-environmental behavior」、あるいはその訳の「環境配慮行動をおびやかす10匹の怪物」だが、これらはいずれも、環境配慮行動を妨げるような何らかの敵があり、その敵は倒さなければならず、それを打ち破ればよりよい環境が実現する、というような印象を与えてしまう。しかし、実際はどうだろうか。少なくとも私の立場から言えば、環境問題は、人間行動の原因となる種々の行動随伴性において、環境に悪い影響を及ぼすような行動随伴性の中に非常に優勢なものがあり(例えば、行動の直後に随伴したり、生得的な好子を伴うような場合)、環境を守ろうとする行動の強化を妨げていることに主要な原因がある。要するに、何かの敵を倒すのではなく、いかにして、環境配慮行動を適切に強化できるのかが課題なのである。

 それから、これは原語のニュアンス、あるいは翻訳技術上の問題なのかもしれないが、日本では「dragon」も「怪物」も絶対悪ではない。ドラゴンはむしろ強さの象徴でもあるし、「怪物」は傑出した人物という意味にも使える。将棋で相手のコマを取ると持ち駒として活用できることにも象徴されるように、日本では、「鬼」も「妖怪」も「怪獣」もみな人気者であって、外に排除するのではなく、内の世界で共存し、なんとかしてうまくやっていこうと対処していくのである。「環境配慮行動をおびやかす10匹の...」というタイトルは、どうも、そういう発想とは相容れないような気がしてしまうのであった。

 もう1つ、仮に「10匹の怪物」を「10の難題」と言い換えたとしても、その難題が、どういう調査に基づいて選定されたものなのか、10個がどのように連関し、全体としてどう取り組む必要があるのかが明示されなければ「思いつきの列挙」に終わってしまう。次回以降は、このあたりのことを考えていきたいと思う。