じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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§§  2008年版・岡山大学構内の紅葉(4)ケヤキの黄葉
生協食堂のあるピーチユニオンの階段から眺めるケヤキの黄葉。黄色系と茶色系の黄葉に常緑樹を織り交ぜた彩り。


10月14日(火)

【思ったこと】
_81014(火)[心理]日本心理学会第72回大会(18)超高齢者研究の現在(10)老年的超越(2)

 昨日の続き。今回はエリクソンの第9段階にまつわる話題について、新たに学んだことをメモしておきたい。

 エリクソンの発達理論というと、ふつう8つの段階が広く知られているが、今回のワークショップでは複数の話題提供者がその次にあたる第9段階に言及していた。その概要は『ライフサイクル、その完結【増補版】』(ISBN 4-622-03967-2、2001年3月23日発行)などで知ることができる。

 今回の話題提供では、この第9段階を量的に実証する試みが紹介された。このうち、外国の研究(Brown & Lowis, 2003)では、「私は死ぬことを怖いと思わなくなった」、「年をとってからも求めることができる新たな心の糧がある」といった20の質問項目(5段階評定)を用いて、53歳から93歳までの女性70人に対する調査が行われた。その結果、「第9段階尺度」の信頼性(内的一貫性)はα係数=0.84t高く、また、「年齢とともに上昇」、「超高齢者において特に高い」といった理論的な妥当性も確認されたという。

 また、Tornstam(2005)が行った「老年的超越」の高齢期における変化についての研究では。いくつかの男女差が認められた。グラフを拝見した限りでは、女性の「宇宙的意識」は単調増加から安定的、いっぽう男性は、年齢が上がると逆に低下するように見えた。「社会との関係」領域では、男女ほぼ同じような傾向があるように見えたが95歳超では女性が最も高い値を示している。これらに基づきて、老年的超越という適応機制がはたらくことで、「健康観」、「自己効力感」、「人生満足感」、「幸福感」といった主観的QOLの増加が見込まれるというような仮説が提唱された。

 しかし、上述の研究は外国人の高齢者を対象に調べたものであった。ところが長寿国を誇る日本では同じような調査を行ったところ、少なくとも東京在住の高齢者では、10項目の内的一貫性が低い(α=0.35)、また尺度自体の説明率も低い(20%)など、老年的超越尺度がうまくフィットしないという事実が明らかになった。

 次回に続く。