じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 座主川沿いの林の中に、毎年、いろいろなキノコを宿す「朽ち木」があり「気になる朽ち木」と呼んでいたが、13日の夕刻にたまたまここを通りかかったところ、ついに倒れてしまっていることに気づいた。



6月13日(金)

【思ったこと】
_80613(金)[心理]人間・植物関係学会2008年大会(7)数理社会学的手法の有用性

 大会2日目ではまず、人間・植物関係を分析するための、数理社会学的手法についての提言があった。具体的な適用事例が無かったのでよく分からない部分もあったが、大いに可能性があるとの期待感が持てた。

 これまでの大会で私自身指摘したことでもあるが、単純な群間比較による実験、例えば、対象者を実験群と対照群に分けて実験群のみが園芸活動を行い何らかの評定スコアの平均値の有意差を検定するというようなやり方は、第三者を説得するエビデンスとしては有用かもしれないが、きわめて人工的な環境条件のもとでの限定的な効果検証に終わってしまう恐れも大きい。平均値の差で比較する限りは、それぞれの個人にカスタマイズされた長期的な効果というのは検証できないし、また、個々人の日常生活諸行動全般の中で、園芸活動がどう位置づけられどう機能しているのかというところが見えてこない。

 では、聞き取りを主体にした質的分析なら良いのかということになるが、言語的報告に依拠する限りは、対象者自身が気づかない(=言語的に報告できない)諸要因を探り出すことは困難であるし、また今回の発表でも指摘されているように、「言語による推論の場合、暗黙の仮定が存在するのにそれに気づかないといった曖昧なところが多くなる」という恐れもある。これらを補い、新たな発見をもたらすツールとして、数理社会学的手法は大いに有用であろうとは直観できる。但し、今回までのところでは、具体的事例へのあてはめが無いので、これ以上のことは何とも言えない。

 なお、今回の発表を通じて、「エージェント」という概念が有用であるということも直観できた。このほか、発表者ご自身が指摘しておられたように、数理モデルというのは、ともすれば、単なる思考実験的な「数遊び」に終わりがちである。これを避けるために
  1. 経験的データにより支持されることを重視
  2. 多くの命題や意外な発見の可能性があること
  3. 社会をよりよくするために有用であること
といった見通しを持つことが必要であるという御指摘もよく理解できた。ちなみに、経験的データに支持され、また具体的な提言に結びつけるためには、現実に操作可能な変数と乖離しないような形でモデルを作ることが肝要ではないかと思う。心理学ではありがちのことだが、現実世界の環境、行動、随伴性からあまりにもかけ離れた構成概念に依拠してしまうと、構成概念オンリーの閉じた世界の中で、現実とは無関係の、モデルの妥当性の検証だけを目的としたような「モデルのための研究、論文増産のための研究」といった研究ばかりが繰り返されることになり、上記の3点のうち2.や3.がどこかに追いやられてしまう恐れが大となる。

 次回に続く。