じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 昨日に続き東大・駒場キャンパス内の写真。会場の18号館近くには、1970年代を感じさせる古い建物や、今は使用禁止になっていると思われる焼却炉が残っていた。岡山大学にも、旧陸軍第十七師団の敷地だった当時の施設や記念碑等が点在していたが、その後老朽化が進み、一部の歴史遺産を除いては殆ど取り壊されてしまっている(例えば1998年12月に解体された、旧・将校集会所など)。京大の吉田キャンパス内も同様で、吉田寮や西端のサークルボックスなどを除くと、1970年代当時の面影は殆ど無くなってしまった(2007年3月29日の日記参照)。


3月18日(火)

【思ったこと】
_80318(火)[心理]第13回人間行動分析研究会(4)信頼と裏切りの実験的研究(1)

 話題提供2番目のタイトルは

●信頼と裏切りの実験的研究

であった。話題提供1番目のタイトルに「衝動性」という言葉が含まれていた時にも感じたことであるが、今回の前半2つの発表では、日常用語でもある「衝動性」、「信頼」、「裏切り」といった言葉を行動分析学的に定式化し、実験的な構築をめざそうという気概が感じられた。その方向性自体はたいへん望ましいことではあると思うが、反面、日常社会における複雑な諸行動現象に拡張しようとしても、実験的分析ではどうしても行きすぎた単純化、あるいは恣意的な条件設定が行われてしまう恐れが出てくる。今回の2つの発表の中でもそうしたジレンマが見え隠れしているように思えた。

 さて、2番目の発表によれば、これまで「信頼」と「裏切り」を行動として扱い、実験的な構築を試みた実験的検討は見当たらなかったという。また「信頼」については、山岸(1999)による「相手の協力的な行動に対する期待」という定義が知られているが、これだけでは行動的とは言えない。今回は、それらを
  • 信頼:二者以上の個体間における協力行動の連続的生起
  • 裏切り:信頼の成立した個体間における、一方の個体による協調行動に対する他方による非協力的行動による応酬
と位置づけて分析を行ったという。

 このような定義を前提として分析を進め、そこから結論を出していくこと自体はよいと思うが、問題は、日常行動における「信頼」と「裏切り」を上記の定義だけでどこまで扱えるかどうかという点にある。

 ひとくちに「信頼」とか「裏切り」と言っても、状況や文脈に限定し、かつ「入れ子」構造になっている場合もある。例えば、あるプロジェクトを立ち上げ契約を交わした場合、その契約の範囲では相手を信頼するが、だからといって私生活面では全く信頼できないというケースもありうる。

 また例えば、仲間と麻雀をする場合など、ゲーム自体は相手の裏をかくことで勝利できるという意味で、「いかにうまく裏切るか」が勝利のコツであるとも言える。しかし、一緒にゲームを楽しむという交流関係は「信頼」の表れであるし、その麻雀仲間であっても、お金の貸し借りは一切しないという場合もありうる。

 このように、信頼とか裏切りの中には、状況や文脈に限定的なものもあるし、入れ子構造になっている場合も多いのではないだろうか。

 このほか「パイロットの操縦を信頼する」というように、当該人物の行動の確実性、精密性、即断性などを評価する(ネガティブな結果が生じる確率を低く見積もる)という意味に使われる場合もある。

 ま、それはそれとして、とにかく、そうした広範囲な行動現象に対して、何らかのとっかかりを作ったという点では、今回の発表は大いに評価できる。

 次回に続く。