じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



03月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
 一般教育棟構内のソメイヨシノ。この時期は、樹皮の陰影が美しい。今週は前期日程の合格発表が行われ、大学構内では一足先に「サクラサク」が見られそう。


3月2日(日)

【思ったこと】
_80302(日)[教育]大学教育改革プログラム合同フォーラム(16)大学院教育改革支援プログラム(4)人社系の取り組みの特徴

 表記の分科会では人社系の取り組みについてさらに詳しい紹介があった。その中では
  1. 技術者習得度客観評価:OSCE(Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床技能試験)の導入←今回の事例
  2. 「初めに資金獲得ありき」という発想では困る
  3. ギャップ・アナリシス(現在実行する必要がある項目と,実行した項目の相違を調べ,問題点を明確化する手法)を取り入れる必要。
  4. 「奇をてらう」または「ニッチを求め」る申請が多かった。
  5. 人文社会分野の複雑に錯綜した諸事象を解明していく分野の教育の実質化が求められる。
  6. 大学院教育の質の改善を実現するPDCAサイクルによる「教育プログラム」の実施が少ない。
  7. 専攻又は研究科を単位とした組織的な取り組みが必要。
  8. 教育課程のシステム化が不可欠。
などの工夫や指摘が大いに参考になった(いずれも長谷川の記憶とメモに基づくため、表現は不確か)。

 ちなみに、大学院教育改革支援プログラムにおける採択割合は、人社系42.1%、理工農系42.1%、医療系15.8%となっており、人社系の採択が重視されていた模様である。また、それぞれの系ごとで申請件数を分母とした採択率をみると、人社系42.7%、理工農系31.4%、医療系32.3%となっていて人社系が高くなっている。もっとも、医療系には別の支援プログラムも各種あるので決して医療系を軽んじているわけではなさそうだ。

 人社系における平成19年度の採択件数を分野別に見ると、最も多いのが「学際分野」12件、ついで「社会学分野」10件、「教育分野」9件、「経済学分野」7件となっている。いっぽう、「法学分野」と「哲学分野」は4件、「文学分野」は3件であって相対的に少ない。この傾向は、平成17〜19年の3年間をトータルしてもあまり変わらない。

 ま、考えてみれば、伝統的な哲学や文学のディシプリンにあっては、何か新しい教育を始めようとしても限界がある。ヘタに「奇をてらう」と基礎分野の研究がおろそかになる恐れもある。上記6.のPDCAサイクルの意義は十分に分かるが、この手法はどちらかと言えば、即戦力養成の効果検証に適したものであって、10年先、20年先の成果を測ることはできない、という問題がある。

 もっとも、人社系すべてが困難というわけではなく、事例にもあったような高度専門職業人養成、あるいは上記5.に引用したような「人文社会分野の複雑に錯綜した諸事象を解明していく分野」においては、改革と実質化の必要と可能性が十分にあるようにも思われる。

 もう1つ、7.の「専攻又は研究科を単位とした組織的な取り組み」はきわめて大切だ。個々のディシプリンの自己都合や保身にこだわることなく、全体的な視点から、研究水準、特長、人的資源、地域のニーズなどを十分に考慮した上で、組織全体で取り組んでいく必要がある。単に「各専攻で1件ずつは計画するように」というような数値的な押しつけではダメ。希望する教員(グループ)を募り、その教員(グループ)に申請作業を丸投げするなどというのも論外である。


 次回に続く。