じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 久しぶりに昭和30年代の写真(1958年7月頃)。生家の庭で昆虫採集をしているところ。11月1日の日記に『昆虫図鑑』が写っていることにも見られるように、この頃は、昆虫に興味があり、いろいろな虫を捕まえて飼ってみたりした。といってもそんなに珍しい昆虫がいたわけではない。ごくありふれたアブラゼミ、カマキリ、アゲハチョウ、カナブンなど。稀にスズメガの芋虫を見つけて可愛がったりしていた。このほか、庭石の近くには蟻の巣がいっぱいあって、毎日、飽きもせずに働き蟻の出入りを眺めていたりしていた。



11月10日(土)

【ちょっと思ったこと】

ホームズ彗星、15回目

 11月11日(日)早朝は晴れてはいたものの、モヤがかかっており、オリオン座の小三つ星が殆ど見えない状態であった。ホームズ彗星は肉眼では確認できず、双眼鏡で、そこに何かがあるぞという程度にしか見えなかった。いちおう、15回目。

【思ったこと】
_71110(土)[心理]日本心理学会第71回大会(48) 日本人は集団主義的か?(13)場面想起法による検討

 昨日の日記では、「Likert尺度では、準拠集団効果があるため、文化差を検出できない」というロジックについて述べた。このリッカート尺度の代わりに高野氏が推奨したのは「場面想起法」であった。

 ここでいう「場面想起法」とは、対象者が過去に経験した事態を思い出させ、その際に実際にどういう行動をとったのかを尋ねるような質問方法のことである。

 11月6日の日記の「誰に投票するかを決めるのに、あなたは次にあげる人の意見にどのくらい左右されますか?」という質問を例に、Likert法と場面想起法を比較してみよう。

 Likert法の場合は、11月6日の日記に記した通り、「両親、同世代の身近な親戚、親友、...」といった項目それぞれについて、左右される程度を5段階で評定してもらうことになる。いっぽう場面想起法であれば、おそらく【以下は、高野氏ではなく長谷川が勝手にこしらえたもの】、
先日の選挙で、どの候補者に投票するのか、両親と会話した場面を思い出してください。両親は、あなたが投票しようと思っていた候補とは別の候補を推薦しました。その場合どうしましたか。
というように設問を変え、回答選択肢として、
  1. 両親が推薦した候補に投票した
  2. 自分が当初投票しようと思っていた候補に投票した
  3. そんなことはなかった
のいずれか1つを選んでもらうようにするのである。

 このような質問方法にすれば、Likert尺度で問題となっていた準拠集団効果は生じないはずであり、集団主義的な項目に対する選択比率を比較すれば、日本人が米国人より集団主義的であるかどうかが検証できるというのが高野氏のお考えであったようだ。

 実際に行われた調査結果では、全7項目中、日本人と米国人が同じ程度であったのが1項目、残り6項目では、日本人のほうが米国人よりも少ない値を示し、日本人は集団主義的であるという通説とはむしろ正反対の結果になった【長谷川のメモに基づくため、正確なデータは不明】。




 さて、以上の概略についての私自身の考えであるが、まず、「Likert尺度では、準拠集団効果があるため、文化差を検出できない」という高野氏の御主張には全く同感である。しかし、場面想起法を用いればLikert尺度の問題はすべて解消できるのかどうかについては、イマイチ納得できないところがある。

 これは結局、どういう場面を想起させるのかによるだろう。上記の「投票」の事例に関しては11月6日の日記にも述べたように、例えば、両親と同居しているかどうか(日常的な接触があるのか、同じ選挙区か、...)といった、文化差以外の要因が差をもたらす可能性は以前として残る。もっと一般的に、それぞれの国の習慣によって、想起対象となる事例が稀にしか起こらない場合と、頻繁に起こる場合があれば、その差が顕著に出るはずである。




 余談だが、「想起される場面」が現実には起こりえない仮想事例にまで拡大されてしまうと、話はさらに厄介になる。仮に「あなたの親友が失恋した場面を想起してください。」などと言っても、その親友は全く失恋していないかもしれない。では「あなたの親友が、仮に失恋したとして、その場面を頭に描いてください」とすれば良いのか。しかしこれでは仮定の上の出来事であって、そういう時に本当に回答通りに行動するという保証はない。仮想事例を含めるということになると、例えば、
あなたは宇宙船エンタープライズ号の船長だったとします。ある時、スポックが、宇宙指令7号に違反して、かつての上司クリストファー・パイク大佐をタロス星まで送り届けようとしました。この時、あなたはスポックをどう裁きますか?
  1. スポックを有罪にする。
  2. スポックを無罪にする。
  3. どちらとも判断できないので裁判官を辞任する。
というような質問をしたら、大概の回答者は、“「宇宙大作戦」なんて視たことがないので、そんなこと分かるもんか。”と反応するだろう。しかし、現実に経験した事例を想起する場合でも、その記憶がきわめて希薄であれば、非現実世界における仮想事例と同じことにはならないだろうか。

 また、さらに言えば、想起される場面それぞれにおいて、人はいつもそんなに安定したパターンばかりをとるものだろうか。その場その場の文脈やニーズによって変えてしまうこともあるのではないか。であるとすると、過去の想起事例がその人の現在の行動傾向を示すとは必ずしも言えないはずだ。


 次回に続く。