じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 1952年10月生まれの私は、10月某日で満55歳となる。これを記念して、ずっとほったらかしにしていた昭和30年代の日記をボチボチ更新しようかと思う。
 第一弾は、バスの運転手さんごっこ。1957年3月撮影。運転席の雰囲気はよく出ていると思うが、なぜか左ハンドル仕様。右手でシフトレバーを握っている。


10月1日(月)

【思ったこと】
_71001(月)[心理]日本心理学会第71回大会(12)環境保護行動を促す説得的コミュニケーション(3)

●Using persuasive communications to protect the environment環境保護行動を促す説得的コミュニケーション

という招待講演の感想の3回目。

 チャルディーニ氏の講演の後半では、

●ホテルの連泊者にタオルの再使用を呼びかけるには、どういうアピールが効果的か

という興味深い話題が取り上げられた。

 ホテルでは通常、タオル類は毎日取り替えられるが、それを洗う時に使う洗剤や乾燥機を使うことは、環境に少なからず影響を与える。連泊者が同じタオルを使えば、その分、環境保護に貢献するというわけだ。

 では、どういうメッセージが考えられるか。講演では以下の3通りが例示された。
  1. 環境の焦点化:HELP SAVE THE ENVIRONMENT.(タオルを再使用すると環境を救う効果あり)
  2. 協力の焦点化:PARTNER WITH US TO HELP SAVE THE ENVIRONMENT. (PARTNERという言葉を入れることで協力関係を強調し、さらにそのホテルが環境保護団体へ寄附するというメッセージを入れる)
  3. 記述的規範の焦点化:JOIN YOUR FELLOW GUESTS IN HELPING TO SAVE THE ENVIRONMENT. (そのあとに「Almost 75% of guests who are asked to participate in our new resource savings program do help by using their towels more than once.....」というようなメッセージを入れ、「みんな協力してくれている」ことを焦点化。
 チャルディーニ氏によれば、これら3通りのメッセージのうち、タオルの再使用率が最も高い結果をもたらしたのは3.であり、47%を上回る成果をあげた。いっぽう、2.の協力焦点化の再使用率は36%程度であり、3条件の中ではもっとも比率が低かった。その理由としては、「こちらが最初に恩恵を与える条件の下では、恩恵を与えてくれる誰かに協力しようという社会的義務感は生じない。」という点が挙げられていた。このメッセージを

●返報性規範の焦点化:WE'RE DOING OUR PARTNER FOR THE ENVIRONMENT. CAN WE COUNT ON YOU?(あなたがタオルを再使用すれば、その節約分が環境保護団体に寄附されると明言し、協力を要請)。

というように変更すると、46%程度までタオル再使用率が高められるという。
 以上に挙げた種々のメッセージでは、
  • 記述的規範と命令的規範がうまく協調して作用するということが伝えられた場合
  • 望ましい行動が広く遂行され完全に是認されており、望ましく無い行動はあまり遂行されておらず厳しく非難されている、ということが伝えられた場合
という2つの独立した規範情報がうまく結びついた時に大きな影響を与えるというのが、最終的な結論であると理解できた。

 その一方、次のような疑問も残った。
  1. 広告メッセージの信頼性。
  2. 少数の違反者にどう対処するか。
  3. 説得されただけで行動するとは限らないし、ましてそれが持続するという保証はない。
 このうちまず1.であるが、ホテルの室内に「75%のお客さんがタオル再使用に協力してくださっています」というようなメッセージがあったとしても、少なくとも私は「75%」という数値は全く信用しない。信頼できる第三者機関の調査結果が引用されているならともかく、調査期間や実数も無しに大ざっぱな75%(=4分の3)という数字が挙げられていても、どうせ、宣伝のために勝手にこしらえた数値であろう、というくらいにしか受け止めない。もちろん、メッセージがいい加減であるからといって、タオルを何枚も使うというわけではないが。

 同じようなことは、「最近、スピードの出し過ぎによる事故が多発しています」というような交通安全キャンペーンについても言える。この場合の「多発」は、「多数の人にご協力いただいています」という上述のメッセージとは性格を異にするものであり、チャルディーニ氏の講演趣旨からは外れるが、いずれにせよ、「事故多発」などと言われても、安全運転を促すために、どうせ大げさに言っているんだろう、くらいにしか受け止められない。もちろん、この場合も、だからといって私自身がスピード違反を繰り返しているというわけではない。念のため。

 講演終了後の質疑の中で、ある方が
骨髄バンクへの協力を呼びかける時に、「ドナーが少なすぎて困っています」というアピールの仕方は、多くの人は協力していないということを知らせてしまうので逆効果。むしろ、多数の方に協力していただいています、とアピールすべきだが、実際に登録者が少ない時に「多数の協力がある」というのはウソをつくことになる。では、こういう場合、ウソをついてもいいのか。
というような質問をされていた(←あくまで長谷川の記憶の基づくため、文言は不確か)。これに対してチャルディーニ氏は「ウソはいけない」と返答しておられた。

 しかし、そもそも、キャンペーンというのは、望ましい行動が少ない時にそれを増やすか、望ましくない行動が多発している時にそれを止めさせる目的で展開するのが普通であり、最初から「多数の人がやっている」のであれば、わざわざお金をかけて呼びかける必要はない。とすると、現実場面において、ウソをつかずに、「多くの人がやっている」というアピールができる対象は、かなり限られくるのではないかと思う。


 次回に続く。