じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 大学構内で見かけたミノムシ。写真上は梅の葉、写真下はミモザの枝についていたもの。過去の観察記録からみて、いずれもチャミノガではないかと思う。写真はいずれも同じ距離から撮影し、同じ倍率で縮小したものであるが、ミノの大きさが違うのはなぜだろう?


9月29日(土)

【思ったこと】
_70929(土)[心理]日本心理学会第71回大会(10)環境保護行動を促す説得的コミュニケーション(1)

 日本心理学会第71回大会の2日目(9月19日)13時30分からはArizona State UniversityのRobert B. Cialdini教授の講演を拝聴した。演題は、

●Using persuasive communications to protect the environment環境保護行動を促す説得的コミュニケーション

となっていた。なお、チャルディーニ氏は

『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか(第二版)』ISBN 9784414304169

の著者として広く知られている。

 講演ではまず、米国で、Top16に選ばれたという「ポイ捨てを止めようキャンペーン」のテレビCMが放映された。16位というと大したことが無いように見えるが、何百何千とあるCMの中の16位であることから、相当に高い評価を得たと見なすことができる。しかし、チャルディーニ氏は、このCMは、社会心理学的には企図した通りの効果を得るかどうか疑わしいと指摘しておられた。

 そのCMというのは、以下のようなものであった(長谷川の10日前の記憶のため、かなり不確か)。
アメリカン・インディアン(←呼称については種々議論があるようだが)の男性がカヌーを漕いでいると、川にいろいろなゴミが流れていた。その後、岸に上がると一面ゴミだらけ。立ちつくしていると、道路を通行中の車から新たなゴミがポイ捨てされ、足元に落ちてくる。インディアンは涙を一滴流す。最後に、美しいアメリカを作ろうというようなキャンペーンが流れる。 【←記憶がかなり曖昧なので、いずれ修正します。あくまで暫定バージョン】
このCMのどこに問題があるのかと言えば、要するに、この映像では、インディアンの男性に共感を覚える効果と別に、「みんながポイ捨てをやっている」というメッセージが送られている。これは、「ポイ捨てをしてはいけない」という効果を弱めてしまうというのである。

 社会心理学の理論については門外漢でよく理解できていないのだが、規範的行為の焦点化理論によれば、社会的規範には2種類があるという。いずれも影響を及ぼすが、そのプロセスは異なると言われている。
  • 記述的規範:大多数がやっていることについての規範。適応的な行動が何かという証拠によって動機づけられる。
  • 命令的規範:何に賛成か不賛成かを示す規範。当該行動に与えられる社会的サンクションについての証拠によって動機づけられる。
記述的規範は行為についての情報を与え、命令的規範は行為を命じる効果があるという。ある状況で典型的に行われていることに人々の焦点を合わせると、命令的規範よりも記述的規範に沿った行動をとるように人々は動機づけられる。上記のCMの場合、ポイ捨てという違反行為が頻繁に行われていることに焦点を合わせているので、違反行為そのものを増加させる恐れがあるというのが、講演の最初の部分の趣旨であった(←一部、配布資料からの要約引用)。

 では、どうすれば良いのかと言えば、もっとキレイな環境のもとで、ゴミを分別した上でリサイクルボックスにちゃんと捨てるというような行為を見せる。その上で、ゴミをポイ捨てしようとした人に注意を促すというようなシーンを付加すればより効果的なCMになるということのようだ。

 このあたりの仮説は、実験や大規模調査で検証されているはずだと思うが、いくつか疑問も残る。

 まず、当然のことながら、テレビでは大量のCMが流され、それぞれの内容を細かく気にとめているわけではない。そこで、CMとして流すからには、まずは、注意をひきつけ、ある程度の意外性やユーモアが無いと、無視されてしまうという恐れがある。そういう意味では、冒頭に紹介されたCMは、
アメリカ・インディアンだけが暮らしていた「古き良き時代」には、ポイ捨てされたゴミなど1つもなく、豊かな自然に包まれた生活があった。ところが、白人たちがやってきて、工業化が進み、この大地はすっかりゴミで汚染されてしまった...
というような強いインパクトを与えている。一方、よりキャンペーン効果があるとして紹介された「改善版」(1つはカウボーイがゴミを分別するシーン。もう1つは、一般家庭でゴミを分別しながら、隣のおじさんは分別しないといって男の子が涙を見せるシーン」は、「みんなゴミを分別しています。あなたもお願いねっ!」というようなイメージがあり、私個人にはあまりインパクトが無かった。

 心理学の研究としてはおそらく、被験者たちに、オリジナル版と改善版の両方を見せて、質問紙や面接といった方法で効果を比較するのだろう。しかし、それは、2つのCMを注目して視た上での比較である。日常生活で、種々のCMに混じって流されるキャンペーンの場合は、また違ったファクターが影響を及ぼしているのではないかと思う。

 次回に続く。