じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
 7月20日より、多くの公立・小中学校が夏休みに入った。しかし、夏休み開始とともに家の中の様子が一変するといいうのは、そういうお子さんのいる家庭に限られる。我が家では特に目立った変化は無く、アパート下に置かれた朝顔の鉢(←終業式の前日に、同じアパートに住むお子さんが小学校から持ち帰ったもの)を見てそのことを実感するくらいの出来事となる。ちなみに、岡大の夏休みは8月上旬から9月まで。



7月20日(金)

【思ったこと】
_70720(金)[教育]「73人合格」実は受験生1人

 各種報道によれば、大阪の某・私立高校が2006年度の大学入試で、成績が優秀だった1人の男子生徒に志望と関係のない学部・学科を多数受験させ、合格実績を事実上水増ししていたことがわかった。関西の有名4私立大(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)の計73学部・学科に出願しすべて合格。受験料計約130万円は同校が全額負担していた。大学入試センター試験の結果だけを利用して合否を判定する入試制度を利用したもので、合格発表後、生徒側に激励金名目で5万円と、数万円相当の腕時計を贈っていた。

 同校はホームページで「平成18年度関関同立144名合格」とPRしたが、合格者数は延べ人数で、半数以上はこの生徒の実績で、実数は33人であったという。

 当該の高校のホームページは7月21日朝の時点ではアクセス不能となっていたが、インターネット図書館に当該のURLを書き込んで「蔵書」を閲覧してみると、平成17年度までの過去3年間の合格者数の一覧表が残っており、
  • 関関同立の合格者数は平成15年、16年、17年の順に、58、60、110名
  • 国公立大合格者は、同じく、年度順に6名、5名、0名(記載無し)
などとなっていた。この高校の場合、国公立大の合格者数はそれほど多いとは言えず、おそらく、宣伝戦略として、関関同立の合格者数を増やす必要に迫られていたものと思う。今回発覚した平成18年度の「合格者数」が本当に144名であったとすれば、平成15年度以降では

58名→60名→110名→144名

となるわけだから、その宣伝効果は相当のものであったと推測される。もっとも、いま述べたように、同校の国公立大合格者は決して多いとは言えない。関関同立に多くの合格者を出している高校なのに国公立はなぜこんなに少ないのだろう? と不審に思った受験生や進学指導教員もおられたに違いない。

 一人の受験生が、浪人となるのを避けるために多数の大学を受験し、結果的に多数合格したというのであれば、別段悪いことではないとは思う。但し、いくらセンター試験利用入試といえども、一校につき3万円前後、同一大学内の併願で1万円程度の検定料が必要となる。本人にもともと受験の意志が無いのに受験した可能性があったり、検定料を(経済的に受験が困難であるというような理由以外で)高校が負担したり、その結果をその高校の合格者数実績として宣伝利用したという事実が確認されれば、やはり問題視されてしかるべきであろう。




 ところで、一人の受験生が「計73学部・学科に出願しすべて合格」というと、もの凄い離れ業のように見えるが、合格した数が多いということ自体は、じつはあまり大したことでは無い。

 河合塾のランキング表を参照すれば分かるように、例えば、センター試験で95%の得点できるような生徒であれば、願書を郵送し、受験料を払い込むだけで、ほぼすべてのセンター利用入試(いわゆるA方式)に合格することができる。73回の個別試験を受験して73回すべてに合格するというのであれば、学力のほかに、体力や気力の維持も必要であって並大抵のことではないが、実際には書類を出すだけで済むのだから、検定料さえあればそれほどの手間はかからないと思う。

 逆に言えば、センター試験で高い得点を取れそうにもない受験生の場合、センター利用方式の入試に多数出願しても、不合格通知の数が増えるばかりで滑り止めには全くならない。募集定員や入試問題の形式(マークシート型か論述式か)によっても異なるが、例えば、センター利用方式の合格ラインが得点率90%の場合、センター得点率80%程度の学力の受験生であっても個別入試に合格できるはずである。つまりセンター利用入試で合格できるような受験生は、当日によほど体調不良にならない限りは、個別試験(一般入試)だけ受験しても十分に合格できるはずで、わざわざA方式を併願するのはお金の無駄になってしまう。




 センター試験の得点だけで合否を判定する入試は、多くの私立大や、一部の国公立大・後期日程で実施されている。私立大の場合は検定料収入を増やしたり、難易度ランキングで上位を確保できるなど、また、国公立大後期日程では、出題・採点の負担を減らすというメリットがあるように思うが、受験生にとっては、あまり有利な制度にはなっていないように思う。

 センター試験利用型の推薦入試(国公立大における推薦入試II型)や、センター試験の高得点科目と個別試験の総合点で合否判定するという制度(いわゆるC方式)であるならば、受験生にとって、体調不良や急病、事故などのリスク回避に役立つと思われるが、出願者が少ないせいだろうか、大学によっては募集人員を減らしたり廃止したりしているところもあるようだ。

 けっきょく、今回のようなニュースは、大学合格者数の実績を上げたいという一部の私立高校のニーズと、検定料収入目当てにセンター試験利用型入試(A方式)の受験機会を増やしたいとする大学側のニーズが一致したもとで生じた現象であり、(今回はあまりにも数が多かったため発覚したが)氷山の一角にすぎないように思える。