じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]

 時計台前の芝地で見かけたネジバナ1号。このあたりではかつて、かなりの数のネジバナが見られたが、他の雑草の繁殖などの影響で激減。今年は今のところ2株しか確認できていない。



6月13日(水)

【思ったこと】
_70613(水)[心理]人間・植物関係学会2007年大会(5)口頭発表の感想

 2007年大会では、6月2日の10時から、6月3日の17時10分まで31件の口頭発表(一部、ポスター発表併用)が行われた。昨年度の大会の発表件数は23件であったので、かなりの増加と言える。この大会は、すべての発表を聴くことができるよう一会場主義(=複数会場で同時進行しない)ことを原則としているが、これ以上件数が増えると2日間の日程では困難となる。1人1発表を鉄則とするか、一部はポスターに切り替えるなどの対策が必要になってくるだろう。

 ちなみに昨年度の大会の時は、私自身が実行委員長をつとめていたので、個々の口頭発表を拝聴する時間的余裕は全く無かった。口頭発表を直接聴くというのは、2005年・山形大会以来、2年ぶりということになる。




 心理学関係学会の発表と異なり、この学会の発表者は、出身学部、現在の御所属などがきわめて多種多様であり、よく言えば学際的、悪く言えば、玉石混淆と言わざるを得ない面がある。

 心理学を専門とする立場から言わせてもらえば、まず、アンケート調査の結果を各カテゴリーに分けて頻度別にグラフで比較する、といったたぐいの発表は、殆ど、情報的価値が無いように思われる。全数調査ならともかく、特定集団だけを対象に調べたところで、サンプルに偏りが出てくるのは必然であろう。100個のサンプルがあれば、合計100回の発表ができるわけだが、それらを比較して、あれが多い、これは少ないなどと言ってみても一般性のある結論は引き出せないように思う。

 園芸活動の効果を検証する、という研究スタイルについては、以前にも言及したことがあるが、
  • どのくらいの期間で効果を検証するのか
  • どういう手段で検証するのか
がカギとなる。その際の検証につきまとう困難性は、被験者(調査対象者)にとって、園芸活動は日常生活のごく一部にすぎないという点であろう。原理的には、園芸活動を実施する実験条件と実施しない対照条件の個体間比較、もしくは、園芸活動を開始する前と開始後における種々の指標変化についての個体内比較(単一事例実験)によって効果の検証は可能であるはずなんだが、実際には、被験者は、日常の基本的活動のほか、園芸以外のさまざまなアクティビティに参加している。そういう現実の中で、毎月1回程度の園芸活動の効果を測ろうとしても限界があるのは必然。

 園芸療法に関する研究としては、これからは「効果の検証」より「価値の創造」に重点を置き、「価値の創造」を可能にするようなテクニカルな面での工夫に取り組む必要があるのではないかと考えている。要するに、「植物と関わるのは良いことであり、治療の手段ではなくむしろ、それ自体が目的となる」という前提のもとで、さまざまな領域から、価値創造のサポートに取り組むのである。

 例えば、認知症のお年寄りが園芸活動に従事するにあたって、花壇(あるいは温室、プランター)にどのような工夫をすれば、容易に参加できるようになるのか、といった問題。行動分析学が取り組めるとしたら、園芸活動という行動に対して、どうすれば自然な形で好子(強化子)を随伴させることができるか、といった課題が考えられる。




 このほか、今回の大会では、「街角の植物とのacquaintanceship」を哲学的に省察されるというユニークな研究もあった。この学会はどちらかというと、農学部や、医療系(医学、看護、作業療法、理学療法)の出身の方の発表が多いのだが、哲学、文学、文化人類学などからの発表がもっと増えると、学際的交流が深まってよろしいのではないかと思う。なお、「街角の植物とのacquaintanceship」のご発表に関しては、質疑の時間に、次回はぜひ東洋哲学の視点からのご省察をお願いしたいとの要望を出させていただいた。