じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 6月7日早朝の田んぼ。まもなく水田の「パラレルワールド」が出現する見込み。このことを察知したカエルたちが、前夜からたくさん鳴いていた。



6月6日(水)

【思ったこと】
_70606(水)[教育]第55回中国・四国地区大学教育研究会(8)教養科目としてのラテン語/教養用科目としての法学

 5月27日の朝に行われた

●人文・社会科学における教養教育と専門教育の有機的連携

というテーマの分科会のメモ・感想の2回目。

 2番目は、K大のM氏による

●教養科目としてのラテン語

という話題提供であった。昨日も述べたように、このK大学では、2007年度より、高学年向け教養科目を開設しており、今回紹介されたのは、

●西洋古典語:古典ギリシア語とラテン語を隔年開講。

の一環であったようだ。

 ちなみに、ある学部の例を拝見したところでは、この高学年向け教養科目の扱いは、4単位を上弦として、外国語を除く全学共通科目の卒業要件24単位以上の中に含めることができるとされている。この学部では、主題科目8単位以上と共通科目6単位以上、合計14単位以上という要件も別にあるため、各学生は、24単位マイナス14単位イコール10単位分の一部を、教養ゼミナール、健康・スポーツ科目、そしてこの高学年向け教養科目の中から選ぶことができるようになっている。但し、主題科目と共通科目だけで24単位以上を揃えることも可能であり、どの程度の学生が高学年向け教養科目という区分の授業を受講するのかは不明である。

 今回紹介されたラテン語は、そうした中でも、受講生の少ない授業の1つであるらしく、21名が履修登録し、4名程度が脱落?している状態にあるとのことだった。この授業で興味深い点は、院生や教員などが単位と無関係に受講していることである。ま、ラテン語などというと、書籍や各種メディアを通じて学ぶことはなかなかできない。少人数のクラスで、ちゃんとした専門家から授業を受けられる機会というのはそう滅多に無いものと思われる。ちなみに私のところでは、文学部専門教育科目としてラテン語が2コマ(前後期各1コマ)開講されている。




 続く3番目は、K大学のT氏による

●ディシプリン入門としての共通科目〜法学の場合

という話題提供であった。このお話は、ディシプリン伝授型の授業をどう展開するのかを考える上で大いに参考になった。

 昨日述べたように、このK大学では、教養教育科目(K大学の場合は「全学共通科目」と呼ぶ)の中に、

主題科目:「将来の専門の如何を問わず、およそ人間として関心をもつべき人類、社会、文化、自然等に関する重要課題」 「学生の多様なニーズに応え、21世紀の諸問題に取り組む視点を提供」」

共通科目:「ある学問分野について、必ずしもその分野を専門としない学生を対象とした、その学問分野への入門となる授業」

という区分があり、上に挙げた某学部の場合は、主題科目8単位以上と共通科目6単位以上が卒業要件となっている。

 このうち「共通科目」はその定義上、それぞれの学部学生向けに開講されている各種の専門科目のうち、概論、概説などと呼ばれる入門的なレベルの授業を他学部学生に受講させることによっても実施可能であるように思われる。こうすると、担当コマ数を削減できるという点で、各教員の時間的負担を軽減することができるし(←とはいえ他学部からの受講生が大幅に増えるので、成績評価上の負担は変わらない)、他学部学生にとっても、いわゆる「教養授業」ではなく、「ホンモノ」の専門科目を体験できるというメリットが出てくる。

 しかし反面、専門科目は、いくら入門とか概説と言っても、それなりの基礎的学力を備えた受講生を対象とし、上学年向けの講義や演習への積み重ねを前提とした内容として開講される性格の授業でもある。異なる教科・科目を受験して入学してきた学生たち(特に理系と文系の違い)に、一律に同じレベルの授業を展開しても、他学部学生が確実に履修できるとの保証はない。またその場合、他学部学生だからという理由で成績評価基準を変えてよいものか、あるいは、他学部学生のレベルにも配慮した授業内容にしなければならないのかという議論も出てくる。例えば、専門科目として開講される物理学概論の授業を、文学部の学生が履修できるのか、といった問題である。

 また、もう1つ、どうやったら受講生の関心を高めるような授業内容を展開できるか、という問題がある。今回話題提供のあった法学の場合などまさにそうだと思うが、法学部学生以外の学生に対して、「法の形式」、「法学説」、「法学説の形成と昨日」、「法学の系譜」などを抽象的に論じたり、あるいは、憲法、民法、刑法を案内図的に概観したとしても、他学部学生がどこまで興味を持てるだろうか、という疑問が出てくる。将来に活かすためにはむしろ、「事例」型の授業、つまり、「買ったものに傷があった」、「欠陥住宅を買ってしまった」、「職場の上司がシツコイ」などのような日常場面での具体的な事例に基づいて解説したほうが、イキイキとした授業になりうるという可能性もある。←但し、「面白さ」だけを優先してしまうと、バラエティー生活笑百科みたいになってしまう恐れもある。

 今回うかがったところによれば、K大学では、全学共通科目としての「法学」は、法学部学生は選択不可になっているという。これは、法学部学生には「憲法入門」、「民法入門」、「刑法入門」というように細かく分かれた入門科目が開設されているためでもあるが、他学部学生向けの「教養授業」の必要性を考慮したというようにも受け取れ、大いに参考になった。

 次回に続く。