じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
 生協食堂2階の窓から眺める半田山の新緑。中央から右下に向かう濃緑色の帯は針葉樹林と思われる。全体に落葉広葉樹が多いため、この時期の新緑はひときわ美しい。



4月22日(日)

【思ったこと】
_70422(日)[教育]第13回大学教育研究フォーラム(10)批判的思考力育成と高次リテラシー能力(2)


 3月28日の11時から12時に行われた小講演、

●楠見孝氏(京都大学大学院教育学研究科):批判的思考力育成と高次リテラシー能力

の感想の2回目。

 講演の後半では、京大・教育学部の専門教育における批判的思考・高次リテラシー育成の授業実践が報告された。

 楠見氏が担当された、専門講義科目、英語論文講読演習、卒論準備演習それぞれにおける指導内容と、様々な評価(思考態度、能力自己評価など)による検証結果が紹介されていたが、このような取組は、批判的思考とは別の授業でも大いに参考になると思った。




 このほか、スライド画面の中で
  1. 批判的思考能力と高次リテラシーは学歴と関連−大学の専門教育の効用か?
  2. 批判的思考態度は能動的な情報収集行動を通して高次リテラシーを高める−態度は、行動を媒介として能力や知識を高める。
と指摘された点は、なるほどと思った。岡大の文学部では、度重なる改組によって学科やコースは大きく様変わりしているが、卒業論文研究を重視している点は全く変わっていない。能動的な情報収集行動を含む卒論研究というのは、学術的なレベルでは低かったとしても、高次リテラシーを高めるという点では十分な成果をあげていると思う。




 それはそれとして、今回紹介された導入教育、教養教育、専門教育の中味は、基本的には、自然科学の枠組みにおける議論であり、専門教育の部分も、Evidence-Basedを重視した心理学の枠内での批判的思考、高次リテラシーということになっている。

 しかし、とりわけ、心理学の専門教育のレベルにおいては、少し前の連載した、
といった、Evidence-Basedの枠外の議論もある。つまり、
  • 自然科学の方法論の枠組みにおける批判的思考
  • 構造構成主義的な視点
  • 社会構成主義的な視点
では、真偽基準(あるいは、真偽そのものについての捉え方)がそれぞれ異なっており、Evidence-Basedのレベルで「これなら正しい」とされる結論が、別のレベルでは、「それは、その枠組みの中の前提を受け入れる限りでは正しいが、枠組みの外から見ればゼッタイとは言えない」とされてしまうこともある。京大といえば、教育学部のほうには質的心理学の大家や、EBP(Evidence-Based Practice)全く異質な臨床心理学の影響も根強い。さらには、総合人間学部(人間・環境学研究科)のほうには社会構成主義の大御所もおられる。こういう教育環境の中で育つ学生たちが、果たして、認知心理学や自然科学の枠内だけにとどまることができるのか、それともひたすら迷い続けるのか、全く別の立場を追い求めることになるのかは、大いに興味が持たれるところである。御講演後の質疑の時間にこのあたりのことをちょっと質問させていただいたが、「長谷川先生はどう思われていますか?」と、逆に質問を返されてしまった。


 次回に続く。