じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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昨日の新入生オリエンテーション&TOEICに続き、4月3日は、学生・教職員教育改善委員会による『履修相談会』が開催され2000名を超える新入生が参加した模様。旧教養部構内は、新入生たちと、新部員獲得をめざすサークル関係者たちで大賑わいとなった。

なお、例年、この時期には夜遅くまで桜の木の下で宴会を行うグループがあったが、無責任なゴミ集積や、飲酒事故防止のため、昨年秋より、「芝コン禁止」の措置が出された。禁止対象となる「芝コン」の定義は明確ではないが、アルコール持ち込みや火気使用(バーベキュー)を含む集合行動のことを言うものと理解している。



4月3日(火)

【思ったこと】
_70403(火)[心理]第12回人間行動分析研究会

 各種の学会年次大会、シンポ、フォーラム等に参加した時は、2週間以内に感想をまとめることにしているのだが、今年の3月は合計4回、5日間も参加したため、感想の連載が追いつかなくなった。記憶が消失しないうちに3月24日に大阪市立大学高原記念館で開催された、

●第12回人間行動分析研究会

の様子を、備忘録代わりにメモしておきたい。演題は以下の通りであった。
  • 14:30-15:20 福嶋純一氏:経験に基づく確率事象の推定−選択場面における獲得した情報の行動的表出−
  • 15:20-16:10 園田章氏:私的出来事の実験的分析
  • 16:20-17:10 田中善大氏:ヒトの高次精神活動の行動分析的検討−自己ルール支配行動の機能に注目して−
 この研究会は、小規模ながら今年で12回目。私自身も、その前身となる会合で発表したことがあった。しかし年度末の校務と重なって研究会発足後はなかなか参加することができず、大阪市大を訪れたのはたぶん10数年ぶりではないかと思う。大阪市大はJR線・杉本町駅から徒歩5分の近さであり通学には大変便利な環境にある。もっとも当日は阪和線構内での信号機故障直後ということで、ダイヤが混乱していた。

 1番目の福嶋氏の発表ではまず、Tversky & Kahnemanのタクシー問題を例に、ベイズの定理に基づく数学的な確率と主観的確率の大きさのズレ(=Base rate fallacy)について、種々の説明が比較・紹介された。

 このうち、自然頻度仮説(Gigerenzer & Hoffrage, 1995)によれば、人は、頻度を用いて確率を見積もるように進化しており、確率計算問題を頻度形式で提示した時には、数学的に正しい見積もり(=ベイズ的な推論)がやりやすくなると考えられている(ネットで検索したところ、関連論文がヒットした)。

 いっぽう行動分析学の領域では、Goodie and Fantinoらによる行動的接近法による解釈もある。

 時間が無いので詳細は省略させていただくが、この種の研究は、日常生活場面での選択行動のバイアスにも関係しており、なかなか面白い。なお、質疑の中では、「実験に使っているカバーストーリーが日常場面に似ていると、判断者(被験者)は自己経験を持ち込んで判断する傾向がある」というようなことが指摘された。




 2番目の園田氏は、行動論的な「私的出来事」の定義としてはCataniaの構造的定義や、Taylorの帰納的定義、Okouhciの2006年の研究などが紹介されたが、これも時間が無いので詳細は省略とさせていただく。




 3番目の田中氏の発表は、自己ルールに関するものであった。行動分析学では、オペラント行動は
  • 随伴性形成行動
  • ルール支配行動
という2つのタイプで維持・制御されると考えられているが、このうちルールには
  • 外部ルール(他者から与えられるルール)
  • 自己ルール(聞き手あるいは行為者が自ら作り出すルール)
がある。自己ルールは、「認知」を行動論的に捉えるうえでも重要な視点になっている。

 発表内容はなかなか興味深いものであったが、質疑の際に私自身からも質問させていただいたように、もともと、随伴性形成行動とルール支配行動というのは、同じ出来事に関して同時に形成されるというものではない、ルール支配行動はどちらかと言えば、直接効果的な結果が影響しにくいような長期的な「行動→結果」の中で、随伴性を補完する形で形成されるものではないか、というのが私の考え。よって、例えば迷信行動のようなものに関しては、実験場面で、随伴性形成とルール支配を比較対照検討できるが、数年単位の出来事についてのルール支配となると実験的分析では限界があるような気がする。このあたりのことは、少し前に、こちらの小論で論じたことがあった。




 この研究会は、若手の研究者が、修論、博論研究やその発展研究を紹介するという趣旨であったと思う。最近は管理運営業務が忙しく、それぞれの領域の最先端の議論を把握することが難しくなっている私としては、この種の研究会での耳学問は大いに有益である。

 なお、今回紹介された研究は、どちらかと言えば、先行研究で用いられた条件を一部取り替えてみることによる追試的発展をめざしたもの、という印象が強かった。全くオリジナルのテーマで研究に取り組むよりは、今回のスタイルのほうが堅実で、雑誌論文になりやすい利点がある一方、領域の外の研究者にはそのロジックや意義がイマイチ分かりにくいというデメリットがあるようにも思えた。