じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
大学構内の辛夷の花。3月24日付け楽天版じぶん更新日記にも写真を掲載したが、その後の2日間のうちに、いっせいに開花した。ハクモクレンと異なり花弁が横に広がるので、林の中を白い蝶が舞っているように見える。


3月26日(月)

【思ったこと】
_70326(月)[心理]心理療法におけるエビデンスとナラティヴ(3)McLeod氏の特別講演(1)サイコセラピーにおける4つの変化

 3月21日に立命館大学衣笠キャンパスで開催された特別公開シンポジウム:

心理療法におけるエビデンスとナラティヴ:招待講演とシンポジウム

の感想の3回目。

 サトウタツヤ氏の導入講演に続いて、メインゲストのJohn McLeod氏(英国アバティ大学教授)による特別講演が1時間にわたり行われた。演題は

●How could Psychotherapy develop from the modern forms to post-modern

となっていた。

 McLeod氏はまず、シャーマンであれ、牧師であれ、サイコセラピストであれ、実際にやることには共通性がある点、但し、そのスタイルは社会文化に左右され、直近の200年の間には、4つの変化があることを指摘された。
  1. メスメリズム:Mesmer が唱えた動物磁気療法。フランスで大流行。患者を取られた医学界の検証により「指先から検出できたのは汗のみ」であることが判明し、メスメルはフランスを追われる。しかし、メスメリズム自体はその後も影響を与えた。
  2. フロイトによる精神分析創始。心理学概念を用いた。ヨーロッパでは受診者数は少ない。
  3. 1950〜1970年頃。ロジャースによるクライエント中心療法、Client Centered Therapy)。1960年代からの認知行動療法(CBT)。
  4. ナラティヴとポストモダン。心理学<社会学や哲学。post-sychological。


 以上の4点が大きな変化をもたらしたことは私も同感だが、うーむ、どうかなあ、種々の変化や影響の中でこの4点が最も重要かどうかについては大いに議論があると思う。

 例えば、パヴロフ、ワトソン、スキナーなどは外してしまってよいものかどうかという疑問がある(←行動療法の流れとしては組み入れられているようだが)。また、今回は時間の制約のためか十分な言及が無かったが、上記の4変化がなぜ起こったのかについてももう少し説明が欲しかった。例えば、和田秀樹氏の『痛快! 心理学』の第3章「さよなら、フロイト博士」では、アメリカでなぜフロイトが受けたのか、そして1960年以降になぜフロイト人気が凋落したのかについて考察されているが、ここでも同じような解釈でよいのかどうか、もう少し時間が欲しかったところである。

 さらに留意すべきことは、McLeod氏が論じられた「4つの変化」というのは、欧米起源のサイコセラピー内部における変化にすぎないということである。多くの先進的な科学技術はもとより、人文社会系の学問の多くが欧米から導入されてきたことは事実であるとしても、だからといって世界中のサイコセラピー(あるいはそれと同等の機能をもつと見なされる療法的処置)が同じように変化したというわけではあるまい。東洋、少なくとも日本においては、仏教や神道、あるいは種々の民間信仰が、サイコセラピーと同等の役割を果たしてきた可能性がある。また、森田療法のように日本で独自に創始されたセラピーがあることも考慮する必要があるだろう。

 そのことはさておき、McLeod氏が4つの変化の1番目にメスメリズムを持ってこられた点はなかなか興味深い。というのは、「動物磁気」などというものは、自然科学的には全く根拠が無く、今の世の中であれば文字通りの「催眠商法」として糾弾されたかもしれないのだが、にもかかわらず、その時代ではかなり流行し、それなりの「治療効果」を上げていたと思われるからである。つまり、サイコセラピーというのは、生理的変化をもたらすことが科学的に実証された方法であれ、お祓いやおまじないであれ、とにかくクライエントに「治る」と信じさせ、自信や安堵感を与えることが第一なのである。

 次回に続く。