じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
時計台前のアメリカフウの紅葉。東側(理学部側)から眺めたところ。南北方向に並んでいるので、午前中は東側、夕刻は西側から眺めると鮮やかに見える。


11月9日(木)

【ちょっと思ったこと】

人間開発指数の相対評価

 各種報道によれば、国連開発計画(UNDP)は9日、2006年版の「人間開発報告書」を発表した。経済力に教育や健康を総合して「人間の豊かさ」を示す人間開発指数で、日本は177カ国・地域中7位となり、昨年の11位から再浮上した。人間開発指数は、1人当たりGDP、識字率、平均寿命などをもとに算出されるもので。1位から7位は、ノルウェー、アイスランド、オーストラリア、アイルランド、スウェーデン、カナダとなっている。今回日本が順位を上げたのは、大学院などの就学率や平均寿命、また景気回復によりGDPが向上したためであるという。

 上に引用したようにこの種の報道では各国の順位、とりわけ日本の順位の変動に関心が集まるが、趣旨から言えば、指標の絶対値がどう変わったのか、世界全体でどの程度向上したのかに注意を向けるべきではないかなあ。といって、どういう数式で算出されるのかは分からない。0.9以上の値をとると、かなりハイレベルになるようだが。

【思ったこと】
_61109(木)[心理]日本心理学会第70回大会(7)心理学界が目指すべき資格制度のあり方(5)安易な政治的決着は避けるべき/保険点数と心理テスト


●心理学界が目指すべき資格制度のあり方〜心理職の国資格化をめぐって〜

の感想の5回目。

 医療心理師、および臨床心理士のそれぞれの国資格化を推進する立場の方々からの話題提供に引き続き、日本心理学諸学会連合常任理事のM氏から指定討論として
  1. 現在日本には、学会レベルで認定されている心理職関連の資格の数は20くらい。
  2. 国資格化は、社会がそれを求めていることが前提。
  3. 強力な反対があると通らない。
  4. 国資格化の要件としては13科目以上の指定科目履修と、国家試験実施が前提。
  5. 基礎資格としての心理師(士)および、職能に応じた専門資格をつくるという案もある
  6. 国家試験受験資格要件として、(4年制)学部卒とするか、修士修了とするか
  7. どこが国資格を出すのか。ちなみに、現在の国資格は、厚労省関係が138、文科省が8、法務省が6となっている。
  8. 現在医療分野では、71種類の心理テストが保険点数対象となっている。しかし、各大学の心理学関連コースのカリキュラムでは、そんなにたくさんの心理テストを学ぶ機会は無い。
というような点が指摘された。なお、以上はすべて長谷川のメモと記憶に基づくものであり、文言や表現、数値は、かなり不確かである点をお断りしておく。




 このうち3.の「強力な反対」という点に関してだが、原則論に固執するあまりに、対立や分裂を繰り返していたのでは何の解決にもならないことは私にもよく分かる。しかしその反面、強力な反対を回避して、政治的妥協をはかろうとすることは、将来に禍根を残すことにもなる。

 それと、この種の議論はあくまで、患者、障害者、当事者、利用者本位で考えるべきである。政治家を巻き込んで縄張り争いをするような事態は避けたいものだ。

 一部には「法案というのは時機を逸すると通らないもの。せっかく、議員の先生方が動いてくださっているのだから、とにかく通すことが先決。問題が起こったら、あとから考えればいい。」などという声もあるようだが、これはマズイ。いったん国資格ができてしまえば、それらは固定され、業界団体として強大な発言権をもつことになる。そうなってからでは、自由な議論もできなくなるし(←発言は自由だろうが、殆ど無視されることになるだろう)、多様性がどこまで保証されるのか疑問である。




 もう1つ、8.の保険点数と心理テストの関係について、例えば、ロールシャッハテストやTATなどは非常に高い点数になると聞いている。しかし、5年ほど前に

●『あてにならないロールシャッハテスト』(日経サイエンス 2001年8月号、原著者 Scott O .Lilienfeld/James M. Wood / Howard N. Garb。原題 What‘s Wrong with This Picture? 、SCIENTIFIC AMERICAN May 2001)

の中で
「6人に1人が精神分裂病【←2001年当時の呼称】」:1999年、カリフォルニアで献血に協力した123名の成人を対象にロールシャッハテストを実施し、その結果をある種の方法で得点化したところ、1/6の人の反応が精神分裂病【←当時の呼称】と評価される数値を示した。
TAT(主題統覚検査)を直観的に解釈する臨床家は、心理的な異常を過大に診断する傾向があるというエビデンスも出ている
と指摘されているように、この種の検査は問題が多い。レントゲン撮影なども同様かもしれないが、必要もないのに何度も何度も検査するという、検査漬け、点数稼ぎに利用されるのはお断りだ。まして、心理テストは、使い方を間違うと、とんでもない弊害を引き起こすことがある。このあたりの議論も避けて通るわけにはいくまい。


 次回に続く。