じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



9月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
[今日の写真]
9月15日朝5時47分頃の東の空(写真上)。写真下は、散歩道の行く手が朝日を浴びて光っているところ。東西方向の道路なので春分・秋分の日の前後は道路と同じ方向に朝日が当たりやすくなる。



9月15日(金)

【ちょっと思ったこと】

台風13号の目と14号

 静止気象衛星画像を見て驚いたが、台風13号はずいぶんと目が大きくなっている。中心気圧は8月16日朝6時50分現在で925hPaとなっているが、九州接近時にどのくらい勢力を維持しているのかが気がかりなところだ。秋雨前線の影響も無視できない。

 ところで同じ気象衛星画像をみると、13号よりはるか東にどうやら14号が発生しそうな模様。いよいよ本格的な台風シーズンか。

【思ったこと】
_60915(金)[心理]日本行動分析学会第24回年次大会(11)目先の利益に囚われやすい人の勉強は一夜漬けになりやすいか?

 大会2日目(9月2日)朝に行われた口頭発表についての感想の続き。

 口頭発表の4番目は、

●価値割引と試験勉強場面の学習行動の関係

というタイトル。

 これは要するに、「割り引かれてもいいから今すぐに受け取るか」、「少し待ってもよいから、後日、満額を受け取るか」というような話。

 例えば、1カ月後に5000円を受け取ることと比較して、「今すぐなら4000円に割り引いてお渡ししますがどうしますか?」、あるいは「今すぐなら4900円に割り引いてお渡ししますがどうしますか?」というように、いろいろな金額を示されたとする。その際、すぐに受け取れるほうを選ぶ時、いくらぐらいの割引を許容するかは個人差がある。かなりの程度で割り引かれてもいいからすぐに欲しいという人は、「遅延のある報酬の価値を低く見積もる」という意味で「遅延価値割引が激しい人」と呼ばれる。一般にはそういう人は、「目先の利益に囚われやすい人」、「物事を短期的なスパンでとらえがちな人」と見られがちである。

 そんななか、遅延価値割引の激しい人ほど、大学での成績が悪いというような研究がある(Kirby ほか、1995)。今回の発表では、これを具体的に裏付けるため、実際に漢字ドリルの課題を与え、遅延価値割引の激しさによって、勉強時間や成績に違いがあるか、また一夜漬けなどの行動が見られるかどうかを検討した。その結果、成績や勉強時間には差が見られなかったが、価値割引が激しい人ほど前日の勉強時間が多いという結果が得られた。




 報告された結果は「遅延価値割引の激しい人の勉強は一夜漬けになりやすい」ことを示唆しておりなかなか興味深いが、疑問が無かったわけでもない。

 まず、方法に関することだが、この種の実験では
  • 今すぐの250円 vs 1ヵ月後の5000円
  • 今すぐの500円 vs 1ヵ月後の5000円
  • 今すぐの750円 vs 1ヵ月後の5000円
  • .....
  • 今すぐの4750円 vs 1ヵ月後の5000円
というように「今すぐ」の金額が250円刻みでリストに挙げられており、どのくらいの額になったら「今すぐ」を選ぶかが事前に調査された。さらに「1ヵ月後」のところは「6ヶ月後」、「1年後」、「5年後」、また満額の金額は5000円のほか10万円でも調査され、遅延日数と主観的価値に基づいて描画される台形の面積からその人の価値割引の激しさが測定されている。

 このやり方自体は客観性があってよいとは思うのだが、こういう調査だけで、「価値割引の激しい人」、「価値割引の穏やかな人」というように固定的なタイプ分けが可能なのだろうか、またそのタイプ分けだけで勉学行動など、日常生活の諸々の行動まで違いが出てしまうものなのだろうか。これはちょっと信じられない。




 私自身がもしこういう質問をされた時にまず頭に浮かぶのは、差し迫ってお金が必要かどうかということだ。給料日前で貯金の残高がゼロに近いような時だったら、かなり割り引かれても今すぐお金を受け取りたいとは思う。しかし、資金にゆとりがある時だったら、今すぐ受け取っても何の使い道もない。以前として低金利のご時世だ。金利1%を超えるようなら、遅延があっても受け取る額が多いほうがいい。要するに、「遅延価値割引」の程度は、その人の固有の性質ではなく、その時々の金欠状況によって変わってくる可能性は無いだろうか。

 今回の実験では大学生99名が被験者であったということだが、その中には、貧困生活を強いられている学生、もしくは、生活はまあまあだが、遊ぶお金が今すぐに欲しいという学生も含まれているに違いない。そういう学生は事前テストで「価値割引の激しい人」にタイプわけされるだろう。また、おそらくそういう学生は、日夜アルバイトにあけくれており、なかなか勉学ができない。まして実験目的だけの漢字ドリルなどに取り組むヒマは無いので結果的に一夜漬けになりやすい。であるならば、同じような結果が出ても不思議ではないが、この場合は、単に時間的な制約や生活諸行動の優先順位の違いを反映していただけであって、「目先の利益に囚われやすい人は...」、「物事を短期的なスパンでとらえがちな人は...」という議論には至らない。




 いずれにしても、人々をタイプ分けした上で「○○タイプの人は△△という傾向がある」というように、個々の人間の行動傾向を固定的に捉えて議論をするのは行動分析的な視点とは言えない。あくまで研究初期、仮説や見通しを立てるための探索的段階として行うべきであろう。そこから先の研究としては、「人間はどういう時に目先の利益を優先しがちであるか」、「目先の利益に囚われやすい状況でどういうセルフコントロールを実施すればより長期的な視点が持てるようになるか」というような方向を目ざすべきであるというのが私の考えだ。

 さて、年次大会からそろそろ2週間が過ぎようとしている。各種学会やセミナーに参加したときは2週間以内に報告・感想を書き終えるということを鉄則にしているので、この連載は、あと1回をもって終了させていただくことにしたい。