じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]
岡山県庁前の通り。マンホールのフタに絵が描かれているのは、もちろん、桃太郎。



9月11日(月)

【ちょっと思ったこと】

台風13号、沖縄直撃か

 9月10日夜にフィリピンの東で発生た台風13号はその後「強い台風」に発達。9月12日朝6時30分の中心気圧はは965ヘクトパスカルだが、気象庁は9月15日3時には930ヘクトパスカルの「非常に強い台風」になると予想している。気になるのは今後の進路だが、米軍合同台風警報センター(JTWC) は早くも沖縄本島直撃を予想している。その後、九州・四国方面への接近の可能性も出てきているようだ。

 このことで気になるのは、9月16日から開催予定の日本教育心理学会第48回総会である。会場となる岡山市が台風被害に遭う恐れは少ないとは思うが、台風接近ともなれば、各地からの移動に影響が出てくるにちがいない。何事もなければよいが...。

【思ったこと】
_60911(月)[心理]日本行動分析学会第24回年次大会(7)もっとペンギンを知る

 学会初日の夕刻には

●もっとペンギンを知るための行動分析学

というタイトルの公開講演が行われた。この講演は、「日本動物心理学会」、「応用動物行動学会」、「ヒトと動物の関係学会」との共催であった。余談だが、共催団体3番目のヒトと動物の関係学会は平成7年に設立、平成11年には会員数1300名を超えているとか。人間・植物関係学会だったら、今年の6月に年次大会を開催したばかりだが、うーむ、会員数や活動内容を比較すると、「動物」のほうが数倍以上の規模となっている。この差はどこから出ているのだろうか。

 ところで御講演の内容であるが、私自身は、そのあとに引き続いて行われた別のシンポの指定討論者となっていたため、途中から打ち合わせのために退室し、最後まで拝聴することができなかった。但し、ご研究の一部は翌日、このプロジェクトメンバーのお一人による口頭発表でも紹介されていたので、だいたい把握することができた。ここでは、御講演と口頭発表のセットについて、感想を述べさせていただくことにしたい。




 講演ではまず、ペンギンにキーつつき訓練を学習させる際のいろいろな苦労話が紹介された。

 ハトにボタン(もしくはパネルキー)をつつかせ、一定の条件を満たした時に(回数、時間などの基準を満たした場合、あるいは弁別課題で正解を出した場合)餌を与えるという学習訓練であればすでに半世紀のノウハウが蓄積されているが、同じ鳥とはいえ、ペンギンを被験体とするのは世界でこのプロジェクトが初めてであった。当然、ペンギンならではのいろいろな工夫が必要となった。

 例えば、今回の被験体の中には、2匹でずっと一緒に飼われていたペンギンが居た。これらを個別に訓練しようとして引き離すと、それだけで寂しがって暴れ出すという。けっきょく1羽が実験に参加している時は、もう1羽は装置の近くで「見学」させるという形で、なだめることができたとか。このことによる「観察学習」があったのかどうかは言及されなかった。

 また、好子(強化子)の与え方にも工夫があった。ペンギンが正解できた時には、好子(強化子)として生のサカナが与えることになるが、丸ごと1匹与えたのではすぐに満腹してしまって学習が進まない。そこで、サカナを分割するとともに、条件性強化子(クリッカー音)を併用した。これは要するに、クイズで正解した時に「ピンポン」という音を出すようなものだ。

 今回紹介されたのは、ペンギンの視覚弁別訓練における移調の有無を検討するという実験であった。ここで移調の有無は
  • 4.8cmと9.6cmの縦線を2つのパネルに同時提示し、長い方をつついたら正解であるように訓練する(半数の個体は、短い方を正解とする)。
  • 訓練が完成したのち、9.6cmと14.4cmの縦線、もしくは4.8cmと3.2cmの縦線を同時提示して、長い方を選ぶか、短い方を選ぶのかを観察する。
という手続で検討された(数値は長谷川による概算)。

 4.8cmと9.6cmの縦線で「長い方が正解」という訓練を受けたペンギンが、もし、縦線の固有の長さ(=9.6cm)だけを手がかりに反応しているのであれば、9.6cmと14.4cmの縦線が同時提示された時にも9.6cmのほうを選ぶはずだ。また、そうではなくて、相対的に長い方を選ぶように学習していたのであれば、テスト条件では14.4cmのほうを多く選ぶはずである(これを「移調」と呼ぶ)。実験の結果、ペンギンは相対的に長いほうを選んだ。また、短いほうが正解であるように訓練されたペンギンたちは、テストで相対的に短いほうを選んだという。ということで「移調が確認された」というのが今回の研究の結論であった。

 ちなみにSpenceの理論によれば、テスト時の縦線が極端に長かったり短かったりした時には生じないらしい。例えば、長い方が正解であると学習していても、9.6cmと2mの縦線が出た時に2mのほうを選ぶとは限らない。このことはこれから検討されるとのことだ。




 ということで、公開講演と翌日の口頭発表の2回にわたり、世界で初めての興味深い話題を拝聴させていただいた。講演者M氏は以前から、動物を被験体とした実験的行動分析の研究で数々の成果を挙げており、また、装置の改良やハイテクの導入といった面でも超一流の腕を持っておられる。今後のご活躍が期待される。

 なお、いま述べたご研究の価値を低めようとする意図は全く無いとお断りした上で敢えて申し上げるが、動物を被験体とした研究というのは、どういう種類であっても、

●なぜその動物を被験体に選んだのか

という意義づけがどうしても必要になってくる。これには、理論上の意義と実用上の意義の2タイプがあると私は思う。

 理論上の意義とは、ヒトの行動を理解する上でその被験体を用いることが非常に有用である場合、もしくは、一般化された学習理論・法則を覆すような特異な学習が確認されるような場合である。

 また実用上の意義とは、それを解明することが人間の生活上きわめて役に立つという場合。例えば、ゴキブリの習性を調べることは駆除に役立つ。また犬や猫のしつけ方を研究することは、ペットとの共同生活上、大いに役に立つことだ。

 ペンギンを知ることにどういう意義があるのか、途中で退室せざるを得なかったため、残念ながら聞き逃してしまった。

 次回に続く。