じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真]  濁る座主川。この用水は旭川から取水しているが、県北部で連日の大雨を記録しているため、旭川本流からの濁った水が流れ込んでいる模様。水量そのものは調整しているためそれほど多くない。


7月17日(月)

【思ったこと】
_60717(月)[心理]スキナーの言語行動論とPECSの活用(3)効果的なトレーニング法の開発

 7月7日の夜に行われた

●自閉症児にコミュニケーションを教える指導法 PECSと言語行動論
講師:Andy Bondy ,Ph.D 〔Pyramid Educational Consultants, Inc.〕

という特別講義出席の感想の3回目。

 さて、講演では、言語行動の定義に引き続いて、「マンド」、「タクト」、「イントラバーバル」、「エコーイック」などについての詳細な解説が行われた。これらの内容は、行動分析学の関連書、例えば、

●杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・マロット・マロット(1998). 行動分析学入門. 産業図書.

あるいはより専門的な解説書として

●日本行動分析学会編(代表・浅野俊夫) (2001). ことばと行動 言語の基礎から臨床まで. ブレーン出版.

などが刊行されているので、そちらをご参照いただきたい。

 なお、現実場面では、単独の制御要因だけで「マンド」や「タクト」が「純粋に」生じるということは少ない。

 例えば、喉が渇いている時に「水」と叫ぶのはマンドであるが、現実場面では、例えば、コーラが目の前に置かれているのを見て「コーラが飲みたい」と言う。この場合、「飲みたい」というマンドに加えて、飲みたい物を特定しているので、「マンド/タクト」という多重の(impureな)オペラントが発せられることになる。

 同じく、「何が欲しい?」と訊かれた時に限って、欲しい物の名前を言うというのは、単なるマンドではない。「何が欲しい?」という言語刺激が先行しているので、イントラバーバルを含んでいる。但し、純粋なイントラバーバル(「1,2,3」と聞いて「4」と答えるような場合)と異なり、欲しい物が手に入れているので「マンド」にもなっており、「イントラバーバル/マンド」に分類される。

 ではそもそも、なぜ、「マンド」や「タクト」というように、言語行動を機能的に分類したり、多重制御に注目する必要があるのかということになるが、これは、おそらく、コミュニケーションというものが、話者と聞き手との相互強化の中で形成・維持されるものであること、従って、それぞれの言語反応がどういう先行条件のもとで発せられどのように強化されていくのかを分類した上で、段階を追ってトレーニングを重ねていくことが望ましく、また最も効率的であるという考えに立っているためであると考えられる。

 自閉症児の場合、欲しい物が何か、あるいは自分がいまどういう状態にあるのかを適確に伝えられないことが多い。そこで、まず、タクトやマンドの中で起こりやすい反応を強化し、さらに、そこに、多重制御を加えて、別の形で制御される反応を起こりやすくしていく。最後には、補助的に付加していた制御要因を外して、単独で別の反応が起こるように移行させる、というステップを計画的に実施すれば、ただ行き当たりばったりにコミュニケーションを試みるよりも効率的で大きな成果が期待できるだろう。





 講演レジュメによれば、これまでのコミュニケーション訓練プログラムで用いられることの多かった指導順序は
  1. 先習行動 (Prerequisities)
  2. エコーイック
  3. イントラバーバル/エコーイック/タクト
  4. イントラバーバル/タクト
  5. タクト
  6. イントラバーバル/エコーイック/マンド/タクト
  7. イントラバーバル/マンド/タクト
  8. マンド/タクト
  9. マンド
 となっていた。しかし、この訓練では、「欲しい」というマンドに至るプロセスが長すぎて、ストレスフルになりやすい。それに対して、PECSでは
  1. マンド/タクト
  2. マンド
  3. イントラバーバル/マンド
  4. イントラバーバル/タクト
  5. タクト
というように初期の段階からマンドが導入されるため、短期間で大きな成果が得られるということのようだ。

 次回に続く。