じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真] 昨日の日記で、外壁を赤や青に塗った建物の話題を取り上げたが、写真の岡大・本部棟のように、青空を映し出して結果的に青く見えるという建物もある。7月9日夕刻に撮影。


7月10日(月)

【思ったこと】
_60710(月)[教育]高等教育セミナー(5)中規模国立大における教員の人事評価制度の運用と実際

 昨日に引き続いて、

●教員評価・人事制度の検証と活用 〜導入・改善状況/業績評価手法/処遇への反映〜

に関するセミナーの参加感想。




 2番目の話題提供は、中規模の国立大における教員の人事評価制度の運用と実際に関わる内容であった。いちおう「中規模」とは書いたが、私の大学に比べると学生数で4割程度。但し、昨日の日記で取り上げた某・小規模私立大に比べると教員数は10倍にのぼっている。

 この種の、新制の地方国立大学はもともと

●わざわざ大都会で下宿して高い授業料の大学に通わなくても済むよう、地元で安い授業料で一定水準以上の教育機会を保障する

という趣旨で設立された。それゆえ、あまり特色を出さず「全国どこに住んでいても、地元で同じレベル以上の大学教育を受けられる」ことが求められていたのだが、法人化以降は、何かにつけて「特色を出せ」と言われる。また近隣には大規模な旧帝大があり、その分校化の可能性も皆無とは言えない。そういう背景が、ぶっつけ本番の人事評価制度導入にあったものと拝察された。




 この大学では平成16年3月に就業規則が改められ、教員は
  1. 教育研究の双方に従事する者
  2. 主として研究に従事する者
  3. その他特殊な業務に従事する者
に分けられた。ちなみに3.のタイプとしては、大手学習塾から招聘した入試専門教員などが含まれているという。

 また評価制度の基本方針では「職員が能力を遺憾なく発揮し、業績が適切に評価されることを基本とする」と定められ、さらに、満60歳に達する年度の前5年間の評価で「教育研究に支障を及ぼすと判断」された教員に対しては、勧奨(退職)が実施される予定であるという。




 この話題提供で興味深かったのは、制度導入にあたって、学内の反対論、慎重論にどう対処したかという苦労話であった。

 まず、旧来の教授会自治は、多数決ではなく全会一致の合意を形成する慣行があった。そうすると、少数であっても強硬な反対者が出た場合は、決定は先延ばしになりがちである。そこで、決定を教授会に委ねるのではなく、「いろいろな意見があれば出してほしい。最終決定はこちらで行う」という方針で対処したという。

 制度導入にあたっては「“ひと”は“ひと”を裁けるのかっ!」という強硬な反対意見もあったらしい。それに対しては、「そんなこと言う教員でも、学生の成績評価をしているではないか」という対応が有効。とにかく、あそこに白鳥が泳いでいるのを見ても、「あれは白鳥ではなく黒いブタだ」と主張することが論理的に構成可能だという議論の世界にあっては、反論の種は尽きない。

 ありがちな反論の1つは、何かを実施した時に例外的に起こりうる弊害を強調し、「そういう弊害は絶対に起こらない」という実証責任を提案者に求めるというものだ。しかし、少数の例外の可能性を恐れて何も実行しないというのは、言ってみれば、緊急手術を前に、手術が絶対に安全であるとの証拠を求めるようなものである(←この事例は、長谷川の考え)。例外的な問題点が想定されたとしてもとにかく実行し、その上で実際に起こった問題について対処していけばよいというのが、前向きな姿勢ということになる。

 このことは裏を返せば、何かの新しい提案に対して、例外的な問題点ばかりを挙げていても、建設的な反論にはならないということを意味する。まずは大枠として、その提案を導入することが有用であるのか、それとも、全般にわたって重大な根本問題を抱えているのか、という視点で議論をたたかわせるべきであろう。




 さて、実際に導入された具体的な評価項目であるが、かなりの部分が私の大学ですでに試行している個人評価の項目と似ていることに気づいた。それもそのはず、この評価制度は、私の大学のシステムをかなり参考にして作られたということである。

 そんななか、多少目をひいたのは、学生による授業評価アンケート結果の反映の仕方である。

 ある学部では、

[(プラス評価された項目数)−(マイナス評価された項目数)]×0.1

というのを教育活動領域のポイントに換算しているとのことであった。

 このほか、学外非常勤講師を担当した場合に2.0ポイントを加点するかどうかはモメているとのことだった。ちなみに私個人は、専任教員が学外非常勤講師に出向くことには原則反対である。土日に開講される授業(放送大学講師や公開講座など)や夏休み中の集中講義担当は名誉なことであるとしても、授業期間中に学外に出向くということは、その時間分、研究室を留守にすることとなり、学生へのサービスを低下させる。さらに困るのは、種々の委員会の開催時間が、そういった学外非常勤講師担当者の都合によって、振り回されることである(←厳密には、本務に支障がある場合は本務を優先するという前提のもとで兼業が承認されているはずなのだが、相手校の学生への配慮もあり、休講にしてまで委員会に出ろとは強制しにくい)。自校での授業分担コマ数は「負担が重すぎる」と主張しながら、他校の非常勤講師をいっぱい担当して給与をもらっている教員も皆無とは言えない。

 地方の小規模私立大の中には同じエリアの国立大から非常勤講師を招かなければ自立できないというところもあると聞くが、今後は、思い切って統合するか、もしくはコンソーシアム形式(例えばこちら)で連携を図っていくべきであろう。




 最後に、この大学における「処遇への反映」であるが、
  1. 特別昇給や勤勉手当の成績優秀者選考に活用
  2. 特別休暇の付与、海外研修の優先
  3. 勧奨退職についての恣意的運用への歯止め
などを予定しているとのことだ。いずれも結構なことだと思うが、昨今の財政事情の中では、1.に関してどの程度の額を加算できるのか、が問題である。少額の加算だけで終わるなら、そんなモノ要らない、多少評価が悪くても、研究時間の多い方がマシだという教員も出てくるであろう。

 また2.は、少なくとも私の職場ではなかなか難しい。ある教員に特別休暇や海外研修が認められても代用教員や代理の非常勤講師が割り当てられるわけではない。けっきょく、その休暇・研修期間中、同僚が、その分、多くの負担を強いられる羽目となる。例えば、私が1年間の海外研修に出たとすると、心理学の同僚教員は、その期間中、おおむね各3〜4コマ程度の授業を多目に担当し、かつ、卒論生や大学院生の個別指導を代行しなければならない、という問題点がある。


 次回に続く。