じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



3月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
[今日の写真] 農場の梅。遅咲きの株もそろそろ開花し、見頃になってきた。


3月2日(木)

【思ったこと】
_60302(木)[心理]“高校生意識調査”結果解釈の問題点

 財団法人「日本青少年研究所」が、去年、日本、中国、韓国、アメリカの高校生に行った

●高校生の友人関係と生活意識 −日本・アメリカ・中国・韓国の4ヶ国比較ー

の結果が3月1日に公表された。

 この研究所の調査は話題性がありマスコミ・ネタになりやすいこと、また、教育について何らかの主張をしている人にとって都合の良いデータを含んでいることなどから、いろいろな形で取り上げられている。3月1日〜2日の記事の見出しとトピックセンテンスを抜き出すと、ざっと以下のようになる。
  • NHKオンライン(2006/03/01 18:46):日本の高校生 関心は漫画音楽
    日本の高校生が関心を持っているのは漫画や音楽などの大衆文化で、アメリカ、中国、韓国の高校生に比べて「成績が良くなりたい」という希望を持つ割合が極端に低いという調査結果がまとまりました。
  • NHKオンライン(2006/03/02 05:57):高校生の友好意識 日中韓で差
    中国と韓国の高校生は、4人に1人が「日本が好き」なのに対して、日本の高校生で中国と韓国が好きなのは、ともに10パーセント台にとどまり、お互いの国に対する意識に開きがあるという調査結果がまとまりました。
  • アサヒコム(2006/03/02/01:30):日本の高校生は意欲足りない 日米中韓で意識調査
    享楽的で、「人並み」意識が強く、意欲が少ない――。こんな日本の高校生像が、日本、米国、中国、韓国の4カ国の高校生の生活意識に関する調査結果から浮かび上がった。
  • 読売新聞(2006/03/02):勉強冷めた日本 米中韓7割超…高校生意識調査
    日米中韓の4か国の中で、日本の高校生は学校の成績や進学への関心度が最も低いという実態が1日、文部科学省所管の教育研究機関による意識調査で明らかになった。
 このうち読売新聞の記事は特に詳しい。
  • 調査を担当した日本青少年研究所の千石保所長は「未来志向の米中韓に対し、日本の高校生は現在志向が顕著で、『勉強しても、良い将来が待っているとは限らない』と冷めた意識を持っている」と指摘している。
  • 「国家の品格」の著者で数学者の藤原正彦さん(62)は、調査結果について、「一言で言えば、日本の子どもはバカだということではないか」と話した。
  • 将来に希望を持てない「希望格差社会」の問題を指摘する東京学芸大教授の山田昌弘さん(48)も「努力することに価値を見いださない傾向は労働意欲の低下につながり、少子高齢社会を支えられなくなる」と危惧(きぐ)する。
といったコメントを合わせて紹介している。

 なお、読売新聞記事の冒頭では“文部科学省所管の教育研究機関"が調査を行ったとなっているが、「文部科学省所管」というのは、文科省の委託により調査を行ったという意味ではゼンゼンない。このことについては以前、♀つきなみ♀日記(2005年1月29日付け)さんが、別の団体「文部科学省所管の財団法人 総合初等教育研究所」に関して詳しい解説をしておられた。要するに、「所管」というのは、認可を受けているだけの意味であって、別に文部科学省がギャランティーしている団体ではない。まず、このことで誤解が無いようにしておく必要がある。



 さて、今回の調査であるが、数字が一人歩きして都合の良い形で利用される前に、まず、調査が信頼性のあるものと言えるのか、そもそも4カ国比較ができるのか、についてきっちりチェックしておく必要がある。

 発信元に公表されている調査方法によれば、調査対象者の性別は、日本が男41.9%、女58.1%となっていて、女子の比率が最も高い。男女込みで比率を出した時には、それだけ女の子特有の傾向が日本の結果に反映されやすくなっている点に留意しておく必要がある。ちなみに、4カ国の中で男子の回答者が最も多いのは韓国で55.5%。

 次に学年であるが、日本人では1〜3年生がほぼ均等であるのに対して、米国では47.1%が1年生と偏っており、また韓国では2年生が100%となっており、1年生と3年生の回答者はゼロになっている。こうした学年の違いは、当然、関心対象、進路、異性への関心の度合いに影響を及ぼしているはずだ。これだけをとっても、安易な4カ国比較はできないことが分かる。




 次に、ある事柄に「どれだけ関心があるか」という程度を訊く質問について考えてみよう。これは、本人の「素朴な気持ち」が客観的に反映されるとは必ずしも言えない。例えば、調査結果が4カ国比較に使われると説明された上で回答する場合は、「なるべく自分の国をよく見せかけよう」というバイアスがはたらく可能性がある。また、曖昧な反応を好む国民では、社会的に評価されやすい項目については「非常に関心がある」とか「関心がない」といった断定的な回答を避ける可能性もあるだろう。こういう回答態度の差違を適正に補正しない限りは、4カ国比較などできっこない。

 「問7 あなたは何か悩みをもっていますか?次の中から選んでください(いくつでもよい)。」とか「問8 あなたは現在、大事にしていることは何ですか?あてはまる番号に〇をつけてください。」というように、複数選択可能な質問項目についても注意が必要である。いくつ選んでもよいと言われた時に、自分自身のことをあまり開示したがらない国民であればあまり○をつけないかもしれない。




 最後に、今回の調査には、少なくとも1つ、私にとって納得のできない質問項目がある。それは、

問23 あなたはアメリカ人、中国人、韓国人及び日本人に対して、どのような印象を持っていますか?それぞれ当てはまるところに〇をつけてください。

という質問である。これは

●高校生はそれぞれの国の人たちに対してステレオタイプなイメージを形成している

という前提がなければ回答することができないはずだ。

 良いイメージであっても悪いイメージであっても、とにかく、ある人がどこの国の出身であるかによって先入観、固定観念を持つことは禁物である。

 この結果を受けて、お互い、マイナスのイメージを改善すればよいのか? いくらそんなことをしても、ステレオタイプなイメージ作りから脱却しない限りは、真の異文化交流には発展しない。いちばん大切なことは、

どこの国にもいろんな人がいる。出身国の違いで、他人の「性格」を判断してはならない。

という見方を定着させることである。これは、血液型の違いで相手の「性格」を判断してはならないということと全く同じだ。

 今後も外国人に対するイメージ調査を行うのであれば、何はともあれ、「出身国の違いで特定のイメージを形成するのは間違いだ」という回答選択肢をぜひ含めてもらいたい。その比率が100%になった時、何のわだかまりもなく交流ができるようになるはずだ。