じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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[今日の写真] 農学部農場の梅の蕾がやっとほころび始めた。2001年2月5日昨年2月14日の記録からみて、例年ならすでに花が咲き始める時期ではないかと思うが、寒さのせいか今年は明らかに開花が遅れているようだ。


2月9日(木)

【思ったこと】
_60209(木)[心理]韓国映画はよいが、血液型はちょっとねえ

 21時すぎに夕食後の夫婦の散歩に出かけようとしたところ、ちょうど木曜洋画劇場で、リベラ・メという映画が始まるところだった。

 先日上京した時には、「僕が9歳だったころ」という映画の中吊り広告を電車で見た。ふだん映画を観る機会が殆ど無い私ではあったが、冬ソナ病に罹って以来、韓国映画に関心を持つようになり、ヒマができれば直接映画館に行くか、レンタルDVDを通じて、ぜひ一度、韓国のすぐれた映画を観たいものだと思うこの頃である。

 そんななか、上掲の「僕が9歳だったころ」の関連サイトをGoogleで検索していたところ、偶然、B型の彼氏 MY BOYFRIEND IS TYPE-Bという映画が上映中であることを知った。

 映画の中味は面白そうだとは思うが、血液型ネタはどんなもんかなあ。




 上掲の公式サイトの宣伝文には、
  • 血液型をめぐる この冬いちばんの 感動ラブストーリー
  • 「やっぱりそう?」。相手の血液型を聞いたときについ出てくるセリフ。
  • 世界中の人の性格が4種類に分けられ、同じ血液型の人は同じ特徴を持つということは考えにくいけど、なぜか納得しちゃう""血液型""のこと。
  • わがままで気まぐれな性格のB型男
  • 彼に恋した気の小さいA型の女のコ
というように、特定の血液型者に対するあからさまなステレオタイプ化、レッテル貼りが行われている。こちらの資料集に掲載のとおり、日本では2004年、血液型をネタにした娯楽番組が多数放送され、その一方、それらの番組が特定の血液型者に不快感を与えたり、就職・結婚などで差別や偏見を助長する恐れがあるのではないかといった批判が相次ぎ、2004年12月8日に「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の青少年委員会の要望が出されたあとは各局とも自粛、ホッとしていたところであった。こんな時期に、再び、特定の血液型をステレオタイプ化し娯楽ネタにするような宣伝が行われるのはちょっとどうかなあと思う。




 なお、上記の批判はあくまで、映画のタイトルや宣伝文に対するものである。映画自体は全く観ていないので、内容に血液型偏見・差別を助長するような台詞やキャラクタ設定があるのかどうかは私には分からない。

 このことに関してネットで検索したところ、今日も明日も映画三昧(2006.1.26版)に、この映画の内容についてのリビューがあることが分かった。その中には、
  • それはさておき、物語は十分楽しいのだけど、冷静に考えてみると別に「B型」をアピールするほどのストーリーでもない。
  • 日本での血液型研究の権威であり、韓国での血液型ブームのきっかけを作ったご当人、能見俊賢氏にお会いする機会があり、氏に感想を求めたところ、「血液型をはずしても違和感なくラブコメディーとしてとらえることができる」と絶賛。
と述べられていた。

 であるならば、つまりストーリーやキャラクターの面白さで勝負するというのであれば、血液型レッテル貼りなど全く不要なはず。日本であれ、韓国であれ、血液型レッテル貼りをネタに金儲けをたくらむ商業主義に対しては断固として鉄槌を下す必要があると思う。




 こちらの資料集紀要論文に記しているように、私自身は、「血液型と性格」に関しては、
  • レベル1:統計的には有意であるが実用的には役に立たない程度の僅かな差
  • レベル2:実用的価値があるほどの顕著な差
  • レベル3:生まれつきの属性(性別、血液型、人種など)と結びつけて他人を判断してしまうことの不当性
という3つのレベルそれぞれにおいて議論すべきであるということを繰り返し主張している。この観点から言えば、「血液型研究」ではレベル2に相当するような成果(例えば、特定の血液型者に対してインフルエンザワクチンを優先的に摂取すべきだというような発見)は見出されておらず、むしろ、商業主義がもたらすレベル3の弊害のほうがはるかに大きい。いっぽう、レベル1は、純粋な学術研究の対象とはなりうるが、テレビや映画で娯楽ネタとして取り上げられるような性質のものではない。かりに僅かな差が確証されたとしても、視聴率アップに都合のよい結論の断片だけが一人歩きしないよう、公表は慎重に行われるべきであると考えている。



 レベル1の血液型研究を進めること自体は私は反対しないが、どのような学術研究も価値中立ということはありえない点には留意しておく必要がある。

 日本と韓国の関係を考える時には、とうぜん、過去の暗い歴史にも目を向ける必要がある。そのさい、韓国の人々には、「血液型と性格」研究が戦前どのようなニーズで進められてきたのかをもっと知ってほしいと思う。

 血液型性格判断は、戦前の日本の医師たちや古川竹二の研究にそのルーツを求めることができるが、それらの研究の後押しをしたのは軍部であった。軍部は、侵略・植民地支配をより効果的に進めるために「血液型」研究を利用しようとしてきたのである。

 戦前の「血液型ブーム」は、血液型提唱者がそれを意図したかどうかにかかわらず、当時の政治的背景のもとで注目を浴びていた。大村(1998)によれば、「血液型」研究の創始者の一人である古川竹二は1931年発行の『実業之日本』で
台湾原住民の反抗が激しい(当時台湾は日本の植民地だったので)。原住民にO者が多いからである。O型者は、がんらい、一般にきかぬ気で、しかも旺盛な精神力を持っている。そこでA型者の多い内地人(日本本土の住民〕との結婚を奨励して、遺伝的に彼らのなかにA型者を増加すれば、血縁につながる人情の美しさもあって、彼らはだんだん温和従順になってくるであろう。
と主張していたという。おそらく、当時日本の支配下にあった韓国の人々に対しても同じような主張が行われたにちがいない。




 余談だが、じつはテレビドラマ「冬のソナタ」の中にも、「血液型偏見」を助長するような台詞が一箇所だけ挿入されている。第四話で、ユジンがミニョンの運転する車に乗って、初めてスキー場に下見に行く時、ミニョンがユジンに「ユジンさん、あなたA型でしょう....」と話しかけるシーンである。もしかして、日本語版で脚色されているのではないかと思い、

●「冬のソナタ」ノーカット完全盤DVDBOX 全話7枚組 韓国盤

の英語字幕をチェックしてみたが、英語字幕のほうでもミニョンがユジンに
You're a type A, aren't you?
You're straightforward, honest, and can't lie, but the things you really want to say, you keep to yourself.
と話しかけていることが分かった。ただし日本語版では、「やっぱりそうだ。当たっているから怒っているのでしょう」というような台詞で終わっているのに対し、英語の台詞では、ミニョンが「僕もA型なんですよ」というように続く。この部分がなぜ書き換えられたのかはよく分からない。また、なぜこの場面で血液型ネタが使われたのかも不明である。

2/9追記]↑の件については、翌日の日記にて考察する予定。