じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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2月7日朝の大学構内。前日の雪がまだ残っていた。


2月7日(火)

【思ったこと】
_60207(火)[心理]サステイナビリティ学が拓く地球と文明の未来(4)佐和隆光氏の講演

 東大・安田講堂で行われた

●サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S) 公開シンポジウム:「サステイナビリティ学が拓く地球と文明の未来」
(2006年 2月 4日 (土) 13:00 〜 17:00 東京大学・東アジア研究型大学連合(AEARU)・日本経済新聞社 共催)

の感想の4回目。今回は、佐和隆光・京都大学経済研究所長による

●地球温暖化対策の経済影響

と題する講演について感想を述べさせていただく。

 シンポ全体の進行が遅れていたこともあり、佐和氏の講演は、テキスト主体のパワーポイントスライドを早口で読み上げるだけの内容であり、おそらくそこに書かれていたことは、佐和氏の御著書や論文を読めば分かることではないかと思うが、それはそれとして、内容は簡潔にまとめられていて素人の私にも充分に理解できた。

 佐和氏はまず、地球温暖化対策の取り組みとして
  • 自主的取り組み(voluntary care)
  • 規制的措置(regulatory measures)
  • 経済的措置(economic measures)
の3つがあり、市場経済を前提とする限りは、経済的措置を優先させ、足りない部分を規制的措置で補うということが望ましいと主張された。

 行動分析の視点から言えば、これらの取り組みや措置というのは、いずれも、行動随伴性を設定し、特定の行動を強化もしくは弱化するということに他ならない。例えば、経済的措置というのは、要するに、温暖化防止に貢献するような行動をとれば、結果として利益(=付加的好子)が上がる(=随伴する)ような仕組みを作ることである。規制的措置というのは、温暖化に悪影響を与えるような行動を弱化することである。例えば、炭素税を課すというのは、「お金が余計にかかる」(=好子消失)という結果を随伴させることであり、これにより温暖化に悪影響を及ぼす行動は弱化される。また、自主的取り組みとは、「こういう行動をすれば環境にやさしい」という形で行動随伴性を記述(=ルール)し、また「環境にやさしい」という結果の価値を高める働きかけ(=習得性好子の形成)を行ったり、温暖化がいかに甚大な被害をもたらすかという確立操作を強めていく取り組みであると考えることができる。

 ちなみに、行動随伴性に翻訳するというのは単なる言葉のお遊びではない。それを精緻化することには、必要な方策を考えるにあたって、どういう行動をターゲットとするのか、どういう結果を操作できるのかをより明確にできるという利点がある。




 佐和氏は次に、京都議定書の3つの論点を指摘された(長谷川のメモに基づく)。
  • 目標とすべきなのは、温室効果ガスのフローとしての排出量か、それともストックとしての大気中温度なのか。
  • 早期の対策が必要なのか、それともゆっくりした対策で十分なのか。
  • 数値アプローチなのか、それとも価格アプローチか。
 ブッシュ政権が京都議定書を離脱した背景は、共和党の政策ブレーンが上記3点それぞれについて後者の立場をとっていたことにあったという。

 ま、このあたりの議論は、一人の人間の生活習慣病予防対策と似通ったところがある。生活習慣病を真剣に防ごうとしたら、前者の立場をとらざるをえないだろう。




 このほか講演では、ロシアの行動、いま日本がとるべき行動などについて分かりやすい解説があった。

 他の講演者のお話の中にもあったが、とにかく、地球温暖化防止のための技術という点では日本は世界の最先端に位置している。これを軸に日本の経済が発展する道をさぐっていく必要がある。

 次回に続く。