じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 日本心理学会のワークショップ風景。慶應義塾大学が全国トップレベルの私立大学であることは言うまでもないが、そのわりに教室や机が古いことに驚いた。経済学部ご卒業の小泉総理大臣も、かつてはこういう机に座って勉強されたのだろうか。


9月10日(土)

【思ったこと】
_50910(土)[心理]日本心理学会第69回大会(1)血液型性格判断三昧の一日(1)

 日本質的心理学会第2回大会に引き続いて、9月10日から日本心理学会第69回大会が開催された。午前中は、私のゼミの院生の発表があったのでそれをサポート(?)。午後からは、

【9月10日 午後】講演 血液型と性格 (講師 大村政男教授)
【9月10日 夕刻】ワークショップ 血液型と性格の科学性(話題提供:安藤寿康氏、渡邊芳之氏ほか)

という「血液型と性格」関連の講演とワークショップに参加した。




 大村氏(ほんらい「大村先生」と呼ぶべきところだが、他の話題提供者の呼称に合わせて以下、「大村氏」と呼ばせていただく)のご講演に関しては、同時間帯に社会構成主義に関するワークショップが予定されておりどちらに出るか迷ったが(8月22日の日記参照)、事前に得た種々の情報から、日本心理学会の大会でこのことについて大村氏が体系的な内容のご講演をされる機会は滅多にあるまいと考え、「血液型」のほうを選ぶことにした。

 言うまでもなく、大村氏は科学的心理学の立場からの「血液型と性格」研究の第一人者。「血液型性格判断」に関しては私なども、私的Webサイトで苦言を呈している一人ではあるが、私の場合の動機はあくまで、テレビや週刊誌の「行き過ぎ」があった時に、そのあまりのひどさに耐えかねて批判活動を展開するということにとどまっている。いっぽう大村氏の場合は、パーソナリティ研究や気質論がご専門であり、純粋に学問的関心に基づいて地道にこの問題に取り組んでおられるという点で、私などとは動機や目ざすところがまるっきり違っている。非科学的俗説は厳しく批判され、偏見差別の弊害も指摘されているが、「血液型と性格」の相関を探究する研究自体は意義があるものと考えておられるようだ。今回のご講演でもそのロマンと情熱を感じ取ることができた。




 今回のご講演は認定心理士研修プログラムとして企画されたこともあり、主として戦前の「血液型と性格」の研究の歴史を淡々と紹介される内容となっていた。引用は正確かつ多岐にわたっており、大いに勉強になった。

 ご講演の最初の方では、20世紀初頭、ドイツ皇帝ウィルヘルム2世やロシア貴族のバクーニンたちが唱えた「黄禍論」(黄色人種警戒論)の流れの中で、人種差別の一環として血液型が利用されたことが紹介された。要するに、ヨーロッパでA型者が多いのに対して(例えばドイツ44.4%、フランス43.8%、イギリス43.4%)に対して、日本人は37.3%、ベトナム人は22.4%、インド人は19.0%というようにA型者の比率が少ない。その後、ポーランドの医師ヒルシュフェルトは、第一次大戦の時に収集した血液型比率を調べ、生物化学的人種指数というのを発表した。これは、A型者とAB型者の合計数を分子、B型者とAB型者の合計を分母として算出するもので2.0以上ならばヨーロッパ型、1.3未満ならアジア・アフリカ型。ちなみに日本人やユダヤ人は中間型に属するという。

 いっぽうこれに対抗?して、古川竹二は、昭和2年頃に「団体気質」というのを考案した。これは、O型者とB型者を分子、A型者とB型者を分母としたもので1.00となればバランスがとれた集団、1.60以上ならばまとまりがなくなるというもの。しかし、実際に収集されたデータには一貫性が無く、御都合主義の「解釈」に終わってしまった。

 これと似た議論は「O型神話」にも表れている。要するに志願兵にはO型者が有意に多いといった主張であるが、このほかにも、「外交官はO型」提言とか、支配下の台湾の住民のO型者を日本人A型者と結婚させてO型者比率を減らせといった主張、さらにはO型者部隊編成などがある。中には、数百人程度のデータから習慣的犯罪者や無知的暴力犯罪者にO型者が多いといった結果(「石橋無事」という人による)が発表されたこともあった。血液型差別というと日本では少数派のB型者やAB型者への差別の問題がしばしば取り上げられるが、O型者やA型者への偏見も相当に強いものであったことが分かる(このあたりのことは、私の紀要論文の中でも取り上げたことがあった)。

 ちなみに、昭和53年4月現在の衆院議員453人の中では、O型者は期待値の139人よりも24人多い163人であったという。このことから能見正比古氏は、「O型者には政治性がある」と結論づけたという。しかし、その後の平成6年と平成16年の調査では、O型者は期待値より若干少なくなっている。その時々の偶然的な偏りばかりを拾い上げて御都合主義的に解釈したための破綻の一例と考えてよさそうだ。時間が無くなったので次回に続く。