じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

7月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

[今日の写真] 大学構内の松葉ボタンが見頃となってきた。別の空き地で育てた苗を梅雨入り前にこっそりと移植したもの。左横のエンゼルトランペットも、別の学部の某教員がこっそり移植したもののようだ。こういう形で園芸の輪が広げ学内美化の向上に貢献したいと思っている。


7月19日(火)

【ちょっと思ったこと】

癌が治る?健康食品

 夕食時にNHKクローズアップ現代「がん 健康食品ブームの裏で」を視た。

 番組記録サイトにもあるように、少し前、患者の体験談を出していた出版社が薬事法違反の疑いで警察の強制捜査を受けた。この「体験談本」には、某キノコががんに効くとの「データ」が掲載されているが出典は不明。体験談はどうやら創作らしい。本の「監修者」は医師ではなく、しかも、本の内容を十分に点検せずに自分の名前を出していることが分かった。

 なお、今回の強制捜査の理由はあくまで、薬事法違反の疑いによるものである。健康食品のように薬でないものは効能や効果を広告してはいけないと定められているにもかかわらず、体験談本を使って、「健康食品でがんが治る」かのように違法に広告し、かつ通信販売の連絡先を本の中に記したことが強制捜査につながった。

 番組記録サイトでは、このような体験本が書店に並んでいると記されていたが、私自身はむしろ、新聞広告でその存在を知ることが多い。最近ではそういう広告も巧妙になっており、「がんが治る」の代わりに「がん細胞は死滅する」「ガン細胞が自殺する」といった言い回しが使われるようになった。

●この健康食品を摂取すれば、ガン細胞は自殺します。

と主張することには

●この健康食品を摂取すれば、がんは治ります。

と宣伝することと実質的には同一であると思うが、法解釈上はどうなるのだろうか。もし両者がことなると判断されるのであれば、

◆AはBを殺した

という検察側の主張に対して

◆AはBを殺していない。AがBに影響を及ぼし、その結果としてBの細胞は自殺しただけだ

と弁護することもできそうだ。

 さて、新聞の体験本広告がこの種の健康食品を購入するきっかけになっていたのであれば、新聞社は実質的に健康食品の広告を掲載していたということになる。そういう広告で収入を得ている以上、新聞社にも一定の社会的責任があるように思う。

 言論・出版の自由という観点からすれば、新聞広告の規制は極力避けるべきであろうとは思うけれども、新聞社の最低限の責任として

●広告に掲載された書籍に虚偽あるいは法に触れる記載があり、そのことによって被害が発生した場合は、新聞社の信頼を傷つけたことについての損害賠償請求を行う

という措置をとってもいいのではないかと思う。これは、インチキ商品、悪徳消費者金融、各種不正取引などに関する広告についても同様である。




 ところで、健康食品に関する事件では薬事法違反や過大な広告内容がしばしば問題とされているが、もう1つ、その商品がホンモノであるのかニセモノであるのかについてもきっちりと捜査を行う必要がある。

 例えば「ガンナオルタケ」という新種のキノコ(←あくまで架空の名前)があり、「これを食べてがんが治った」という宣伝がなされたとする。この時、世間は「カンナオルタケは本当に効くのだろうか」という方向に注意を向けてしまうが、もう1つ、その会社が発売している「ガンナオルタケ」はホンモノの「ガンナオルタケ」なのか、それとも、安価なエノキタケを加工しただけのニセモノなのかという点も疑ってみる必要がある。

 素朴に考えても、体験談を創作したり出典不明のデータを付け加えたりするような会社が、ホンモノを売るためにコストをかけているというのは信じがたい。効果の検証ができないばかりでなく成分の分析をする手だてを持たない購入者は、中身についても騙されてしまうことが多いのではなかろうか。

 こういう発想は、心理学における「尺度の妥当性と信頼性」概念と通じるところがある。健康食品における妥当性と信頼性とは、たぶん、
  • 妥当性:その食品に効能があるかどうか。
  • 信頼性;売られている食品はホンモノかどうか。
という形で区別できるかと思う。