じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 大学構内のフサアカシア(通称ミモザ)と花桃とローズマリー。あまり鮮明ではないが、黄色、赤、青の「絵の具の三原色」の取り合わせとなっている。


3月29日(火)

【ちょっと思ったこと】

アンタレス食と来年の皆既日食

 3月30日の深夜(日付は31日の午前0時台から1時台)にアンタレス食が見られるという。こちらによれば、アンタレス食は1991年以来実に14年ぶり。また、1等星の食が次に日本で条件よく見られるのは2016年のアルデバラン食まで機会が無いということだから、ぜひ眺めておきたいものだ。

 星食といっても、珍しいのは、その星を月が隠す瞬間と、月の後ろから星が現れる瞬間である。特に、月の暗い側から星が出現する瞬間が見ものではないかと思われるが、その時刻は福岡で午前1時23分、東京で同1時43分頃であり、起きているのはちょっと辛い。潜入時刻のほうは、福岡で午前0時27分、東京で同0時29分頃なので、こちらのほうは何とか見られそうだ。潜入から出現までの間は、単に月だけが光っている状態であってあまり珍しいとは言えない。

 余談だが、来年の3月29日は、北部アフリカ〜トルコ〜ロシア南部で皆既日食が見られる。すでに観測ツアーの予約申込みを始めている旅行社もあるようだ。私もできれば参加したいと思っている。卒業式の翌日の3月26日以降に出発するツアーであれば、何とか年休がとれるのではないかと思っている。

【思ったこと】
_50329(火)[教育]京大・第11回大学教育研究フォーラム(7)やりたいことだけやって卒業できる大学もアリでは?/4件法質問紙への素朴な疑問

 表記のフォーラムについての感想の最終回。今回は、3月23日午後に行われたラウンドテーブルのうち

●相互研修型FDの組織化による教育改善(中間成果報告)

について感想を述べたいと思う。

 さて、13時30分から16時までの同じ時間帯には、他に
  • 心理学者、導入教育への挑戦−−−動機づけ、学習過程、自己形成の観点から−−−
  • 大学生心理学の構築−−−青年心理学と大学教育学の架橋−−−
という2つの企画が同時に行われることになっており、この3企画のいずれに参加するか直前まで迷っていた。個人的には心理学関係の企画に出たいという気持ちがあったが、全学FD委員長を仰せつかっている立場上、「相互研修型FDの組織化」についての情報を得ておくことは不可欠ではないかと考え、こちらのほうに出席した次第である。

 しかし、企画者・関係者の方々にはまことに失礼な言い方になるが、この選択は少なくとも私にとっては失敗であった。率直な感想として、このラウンドテーブルに参加したことによって得たものは殆ど無かった。

 まず「相互研修型FDの組織化による教育改善(中間成果報告)」というタイトルであるが、いくら中間報告とは言え、これは少々「看板に偽りあり」ではないかという気がした。というのは実際の内容は
  • 京都大学工学部における授業アンケート実施報告暫定版
  • 京都大学工学部における卒業研究についてのアンケート実施報告暫定版
というローカルな内容が大部分であって、いったいどこが「相互研修FDの組織化」なのか、どういう一般性があるのかが今ひとつ伝わって来なかったからである。

 もう1つ疑問に思ったのは、なぜ、この取り組みが特色GPに採択されたのかということであった。お話を伺った限りでは、これは1つの大学のFD活動の実践報告にすぎない。相互研修型というが、もし工学部専門教育の改善を目ざすのであれば、工学部が主体的に取り組むべきである。京大高等教育研究開発推進センター側がサポートすると言っても、全学のFDを推進する組織が工学部だけに関わるわけにはいかないはずだ。センターが関与する「FDの組織化」である以上は、いくら人員が限られているからといって、全学を対象とした一貫したシステムとして構築されるべきである。

 昨年3月20日の日記でも言及したように、特色GPでは「実績の積み重ねも対象となっていること、但し、この文教政策は、他大学でも活用できるような情報提供を目的としていること」が重視されていたはずである。しかし、ここで伺った限りの京大の取り組みは他大学に比べて必ずしも先進的とは言えず、はなはだ失礼であることを承知の上で敢えて言わせてもらえば、京大高等教育研究開発推進センターという「顔」だけで採択されたのではないかと思いたくなるような内容であった。




 しかし、いくらなんでも、特色GPが「顔」だけで採択されることは無かろう。好意的に見れば、この特色GPでは次のようなことが期待されるのではないかと勝手に考えた。
「自由の学風」の京都大学は、組織的な教育改善が全国でも最も困難な大学である。いっぽう、京大高等教育研究開発推進センターは、全国でもトップクラスのFDスタッフを揃えている。そこで、特色GPという異種格闘技のリングを設営して「相互研修」という名のもとに両者を対決させれば、他大学でも活用できるような貴重な教訓が生み出されるはずだ。
 もっとも、「1文字学部(文学部、法学部、理学部、医学部、薬学部、農学部?)における困難性」という発言があったことからも示唆されるように、京大での組織的な教育改善にはやはり限界があると思うし、またその必要も無いと思う。

 京大の卒業生としての立場から言わせて貰えば、京大というのは、やりたいことだけやって卒業できるところにその最大の特色があったように思う。「やりたいこと」を学問に見出した学生は、自学自習あるいは先輩の大学院生などと共同でスゴイ研究に取り組む。しかも、教授とは考え方が違っても、ちゃんと研究している限りは、教授はあまり文句を言わない(というか、教授でも太刀打ちできないことさえある)。そういう環境の中でもそれなりに優秀な人材を輩出しているのだから、ヘタに手を加えないほうがよろしいのではという気もする。また、入学当初の専攻とは異なる学問分野に興味を見出した人、あるいは「やりたいこと」を学問以外に見出した人たちの中からも、一角の人物がたくさん出ている。いずれの場合も、厳格な成績評価とかGPA制度などを導入したら、途中で単位不足・退学に追いやられていたかもしれない。

 指定討論者も言っておられたが、とにかくこのGPに関しては、残り期間で異種格闘技がどう決着するか相互研修FDの組織化がどういう成果を得られるか見ものである。注意深く見守っていきたい。




 なお本題からは外れるが、このラウンドテーブルの途中で私も1つだけ質問をさせてもらった。それは、京大工学部で行われた授業アンケートが「あてはまる」「ややあてはまる」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」という4件法(4段階評価)となっていおり、5件法(5段階評価)の「どちらとも言えない」選択肢が外されていた点である。前にも別のところで述べたことがあるが、私はこのやり方には以前から疑問を持っている。その理由として
  • 「どちらとも言えない」という中立的評価を外すことは質問にいい加減に答えさせないとい効果を持つ一方、慎重に考えたがやっぱり「どちらとも言えない」という態度に至った人の回答権を奪うことにもなりかねない。
  • 「あてはまる」4...3...2...1「あてはまらない」という4件法では、肯定的、否定的な意見に分かれた場合の平均値は2.5ということになる。しかし、4件法は、「中立的な回答2.5は存在しないという前提のもとで調査を行っている」のであるから、存在しない「平均2.5」を中心とした回答分布を考えること自体が自己矛盾しているように思える。むしろ、3.0と2.0をピークとする双峰型の分布モデルを考えるべきではないのだろうか。
  • 本来「どちらとも言えない」と答える人は、担当教員を批判するような否定的回答を嫌う傾向があるかもしれない。中立的な選択肢が除外されたことで結果的に、ポジティブな方向に回答傾向がシフトする恐れはないだろうか。
こういった質問に対しては、
  1. 純粋な学術研究ではなく、報告書を書くことを目的とした調査では4件法のほうが読み手に「分かりやすい」。
  2. 別の大学のデータによれば、5件法と4件法では.99レベルの相関があった。
  3. 因子分析を行う場合には、中立的回答はむしろ線形性を損ねる。むしろ、「どちらとも言えない」と考える人はその項目を無回答とし、欠損値として処理したほうがよい。
というようなお答えをいただいた【あくまで長谷川の記憶とメモに基づくため不確か】。
 このうち、2.で「相関が高かった」というのは、相対比較をした時の順位が変わらないという意味では理解できるが、絶対評価、つまり評定平均値が高めに出る可能性は排除していないように思われるのだが、いかがだろうか。

 「どちらとも言えない」を欠損値として扱うという考えはそれでよいと思うが、であればこそ、そういう回答選択肢を設けるべきではないかなあ。そして、結果的に、圧倒的多数が「どちらとも言えない」と答えた場合は、その質問自体が不明確、もしくは、時間的制約などで回答者が真剣に答えてくれていないことを示す信頼性の指標として処理するべきであるようにも思う(もちろん、どちらとも言えない程度の満足度という安定状態の指標と考えられる場合もある)。

 以上の疑問については今後も考えていきたいと思う。




 ということで今回の京大フォーラムの感想を終わりにさせていただく。なお、執筆時間の関係で、今回は、個別の研究発表についての感想は省かせていただいた。