じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 寒風吹き荒れる中で春を待つ白木蓮の花芽。


1月31日(月)

【思ったこと】
_50131(月)[心理]「傾向がある」ことへの対策(その7)自殺は月曜に多発するか

 ほぼ一週間ごとの連載となってしまった。

 23日の日記では、「出生時男女比」や「高齢者男女比」など生と死の話題を取り上げた。生まれた時には男性のほうが若干多いのに、高齢者になると女性の比率が圧倒的に多くなる。この原因としては生物的な要因(=女性のほうがからだが丈夫)が第一に挙げられると思うが、これに加えて、男性のほうが自殺者が多いということも原因の1つに含まれているようだ。厚労省が行った2003年度分析(2005年1月28日発表)によれば、2003年の自殺者は過去最多の3万2109件、そのうち73%は男性であったという。

 さて、この「自殺死亡統計」に関する各種報道をみると
  • 自殺は月曜に多発(スポニチアネックス 1月29日)
  • 自殺、月曜日と早朝に多発・厚労省が初めて分析(NIKKEI NET 1月29日)
  • 自殺死亡統計:自殺するのは男女とも月曜が多い 厚労省(毎日 1月28日)
  • 自殺、月曜が最多 期待はずれの週末影響? 厚労省統計(アサヒコム 1月29日)
  • 自殺は月曜日に多発、週末に向け減少…厚労省統計(讀賣新聞 1月29日)
というように、「月曜日に多発」を強調している見出しが目立つことに気づく。

 では、本連載の視点からとらえた場合、「月曜に多い」という「傾向」はどう受けとめたらよいのだろうか。

 何はともあれ元資料の中の死亡曜日別にみた自殺のデータを見てみよう。1日平均の死亡数を見ると、確かに月曜日は男性80.7人、女性27.3人となっており、総平均の男性64.1人、女性23.9人より多く、曜日別で最多となっていることが分かる。これらのデータは標本調査ではなく全数調査なので、統計的検定にかけるまでもなく、「男女とも月曜日は多い」、「男性については、週末に向け減少」という特徴を持っていると結論することができる。また、全数調査ではあるが、これから先のことを予測する場合には、「今後も続く傾向」として統計的に推測することも可能である。

 もっとも、見出しの一部にある「月曜日に多発」が妥当な表現であるかどうかは疑問だ。自殺そのものはどの曜日でも起こっているし、人口10万人比で言えば男性で32.8人、女性で10.8人という稀な現象であり、その中での曜日別の差を過大に取り上げても自殺防止に役立つかどうかは分からない。

 では、曜日別の違いを全く無視してよいのかと言えばそれも妥当とは言えない。要するに、自殺というのは、仕事上の悩み、生活苦、失恋、離婚、病苦、厭世など、さまざまな原因によって起こるものであるのに対して、曜日別の集計というのは、「自殺した」という結果の寄せ集めを分類したにすぎないからである。

 曜日別の集計を自殺防止に役立てようとするのであれば、どういうケースでは月曜日に自殺が多くなるのか、どういうケースでは曜日に無関係に自殺が多くなるのか、自殺原因によっては、土曜日に最も多い場合があるのではないか、といったように、もう少し細かく分析していく必要がある。

 このことに限らず、「ある傾向」を分析するにあたっては、まずその現象が単一の原因だけで説明できるのかどうか十分に検討を加える必要がある。いくつかの原因が異なる「傾向」をもたらし、その多数決原理の総和として、見かけ上の「傾向」が観測される場合があることを忘れてはならない。

 少々脱線するが、今回の厚労省のデータの中では性・年齢階級(10歳階級)別自殺死亡率(人口10万対)の国際比較というデータがまことに興味深い。日本人男性では「55〜64歳」に自殺のピークの1つがあることは、世界的にみても特異的である。今回の卒論研究の中にも「向老期」をテーマとしたものがあったが、この年齢層で何が起こっているのか、詳しく調べてみる必要がありそうだ。