じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 昨年11月28日の日記で、大学構内の用水路の水たまりから、スジエビ、テナガエビ、魚類の一部を「救出」したと書いたが、あれから2カ月経った今でも、大部分は健在。写真に写っているのはフナ(たぶんギンブナ)とスジエビ。両者は完全に共存しており、接近しても逃げたり攻撃したりすることはない。


1月26日(水)

【思ったこと】
_50126(水)[心理]卒論へのヒント(1)引用の難しさ

 本年度の卒論提出締切(1/31)まであと4〜5日を残すのみとなった。ゼミの学生からは毎日のように下書ファイルが送られてくるが、毎年、指導で手こずるのが文献の引用のしかたである。

 序論下書の中には、文献を殆ど引用せず、なぜそのことに関心を持ったのかという随筆のようなものを述べているものがある。Web日記ならそれで十分だが、論文として書く以上は、なぜそれが研究対象として重要なのか、そのことについて過去にどういう研究があったのか、文献を引用しながら、「研究の目的」へと絞り込んでいかなければならない。このあたりが難しい。

 いっぽう、引用文献数は多いが、単に言葉を借用して繋げているだけという下書も見受けられる。例えば、

人間と動物の間には深い繋がりがある(桃太郎、1998)。動物はしばしば、人間の日常生活とは違った世界に我々を導いてくれるものだ(浦島太郎、1997)。本研究は、アニマルセラピーの効用について、以下の5つの視点から実証的な検討を行うことを目的とする。

などという序論があったとしよう(あくまで、仮想の下書)。

 この場合、人間と動物の間に深い繋がりがあるとか、違った世界に導いてくれるということは確かかもしれないが、わざわざ、桃太郎や浦島太郎の文献?を引用しなくても、単に、そういう可能性があるかもしれないと書けば済むこと。研究論文において文献を引用する場合は、単に言葉を借りたり、「こういうこともある」と紹介するのではなく、引用元の研究が今回の研究にどうつながっているのか、関連性を示しておくことが望まれる。




 一口に引用といっても、研究分野や研究目的によって、引用の必然性や引用範囲は大きく異なってくる。

 例えば、ある偉大な研究者の根本思想を紹介し新たな解釈を加えるという論文を書くのであれば、とうぜん、原著からの正確な引用が求められる。分量も多めになるだろう。

 また、何かの対立する主張を比較した上で自分の考えを述べるという場合にも、それぞれの主張者の言葉を正確に引用し、どこが本質的な違いであるのかを明確にしておく必要がある。その際に気をつけなければならないのは、文脈を無視して揚げ足取り的に言葉を抜き出さないことだ。

 そのほか、具体的な調査結果を引用する場合も多い。その際には、まず数値を正確に引用すること、また、調査方法や調査対象、標本数などについて、再現可能な(結果に疑いがあった場合に再調査で検証できること)情報を付加しておくことも必要である。




 ところで、自分の主張を権威づけするだけのために、偉大な研究者の言葉をわざと借りてくるというケースもあるが、これは、科学論文では邪道であろう。但し、短時間の講演、しかも、実証性をあまり重んじないような話題を取り上げる時には有効な話術となる場合がある。例えば
  • 私はAという学者を尊敬している。
  • Aはこれだけ偉大な業績をなしとげている。
  • Aは「○○は××だ」と言っている
  • 私も、○○は××だと思う。
と講演すれば、単に「私は○○は××だと考えます」というよりも主張が権威付けられるのだ。

 テレビ番組など視ていると、何も証拠を挙げずに、エライ人との一致性だけを拠り所に自分の主張を権威づけしている人を見かけることがある。

 少々脱線してしまったが、とにかく、何事も、必然性のある形で、正確に引用しましょう。