じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

12月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

[今日の写真] 農学部本館前のメスの楷の木。今年は特に鮮やかに紅葉している。台風で南隣のオスの木の枝が折れて雄花が少なくなり受粉できず、あまり実を結ばなかったせいだろうか。


12月1日(水)

【思ったこと】
_41201(水)[心理]能動主義から見た「NHKまちかど情報室」(その1)「どういうモノが必要か」ではなく「どのような能動的行動が奪われているか」が成功の秘訣

 12月7日と14日の2回だけ、「基礎科目3」という授業を分担することになっている。1回目は、“「性格」概念の有用性と限界”(内容は生涯学習講座の内容をアカデミックにアレンジしたもの)、2回目は、そこからの発展として、私のメインテーマである「能動主義の心理学」について話す予定である。

 このうち2回目に関する身近なネタとして、NHKまちかど情報室の話題をいくつか取り上げようかと思っている。

 「まちかど情報室」は、「おはよう日本」の番組の中で、朝6時40分頃から始まるコーナーであり、最近人気の、アイデア豊かなビジネスが取り上げられることが多い。私の朝食時間と重なっているため、ほとんど毎回視ている。

 その中のいくつかのビジネスは「能動性を活かす場を提供する」という点で斬新なアイデアを提供しており、そのことが成功につながっているのではないかと思っている。

 今年放送されたものから古い方向に遡る形でいくつか実例を取り上げてみよう。




 まず、『中高年に“算数”が人気』 (10月26日放送、お問い合わせが多かったものとして、11月26日に再度放送)。10月25日付日記に記したように、計算作業をするということには少なくとも3つの意義があるように思う。
  • 1つは、電卓に奪われてしまった計算作業という知的活動を人間の手に取り戻し能動的・主体的に行うことの意義だ。
  • 2番目は、計算作業をすることによって小学生の頃の思い出が蘇ってくるかもしれないということ。
  • 3番目、そして、これが一番重要かと思うのは、毎日一定時間、計算作業にきっちり取り組むことで向上感や累積的な達成感が出てくるということ。漢字ドリルでも英単語暗記でもよいが、とにかく何らかの作業をきっちりとこなすことは高齢者の生活の充実に繋がる。
 このうち1番目と2番目は、能動主義に裏付けられた「やりがい」「生きがい」ということになるかと思う。




 11月1日放送の『あなたらしさを送れます』では、自分の手書き文字からオリジナルの書体を作るサービス、あるいは自分自身の肉声音声を収録して音声合成ソフトを作り、入力した文章を肉声のように読み上げる技術が紹介された。これも、自分自身による手書き、あるいは肉声という点で、能動主義を反映したアイデアであると思う。もっとも、これらの技術って、偽造文書やオレオレ詐欺に悪用される恐れがあるのでは?

 10月25日放送の『多機能化する炊飯器』は、ケーキ、パン、シュウマイを作るという能動的行動が強化される機会を炊飯器に提供するものと言える。




 10月18日放送の『“栽培ゲーム”で作物アピール』というのは、栽培行動という能動的行動を強化するゲームであると言えよう。疑似体験であるとは言え、自分が作った野菜を食べることができればおいしさも格別というものだ。




 10月の初めに放送された「シリーズ音楽ビジネス」にも「能動」を活かしたビジネスがたくさんあった。

 10月5日放送の『シリーズ音楽ビジネス(2)続々登場 ユニークピアノ』の中では、液晶画面で楽譜や指の動かし方を表示するピアノが紹介されっていた。このほか、最近のデジタルビアノは、たいがい、自動演奏機能や録音機能がついている。これによって、ピアノの初心者でも、主旋律だけを片手で弾くことで、「能動的な演奏」に参加し、上手に弾けること自体で行動内在的に強化される機会が増えてきた。

 クロマトーン
...ピアノの場合、鍵盤が黒鍵と白鍵に分かれ、一見音と音の距離がわかりづらい。直感的に判断できる楽器が作れないか。その思い付きが、新しい鍵盤構造の誕生に繋がった。
という発想も頷ける。但し、この種の楽器は、機能性のほかニーズ、普及率にも依存する。少し前に書いたが、ヒューマンインタフェース上は不便であるような道具も、大量に普及してしまうとスタンダードになってしまう。一例としては、昔ながらのパソコン・キーボード配列(QWERTY配列)や、ケータイの文字入力機能がある。つまり、逆に言えば、機能性を合理的にするだけでは普及には繋がらない。これをどう克服するかが今後の課題だろう。

 その翌日、10月6日放送の『シリーズ音楽ビジネス(3)あなただけの曲作ります』というのも、作譜や伴奏の技術の無い人に「作曲」という能動的行動が強化される機会を提供しているという点で斬新なアイデアであると言える。




 9月28日放送の 『ゲームで運動機能回復』については、9月27日の日記で取り上げたことがあった。

 今後、日本の誇るハイテクを活用して、高齢者が能動的に楽しめるようなゲーム機器が多数導入される可能性もある。特に痴呆症(←まもなく「認知症」に改称?)のお年寄りにとっては、かなりの効果を発揮するものと期待される。

 但し、その一方、ゲームに熱中することは、必ずしも主体的な能動とは言えず、また、ゲームに熱中する時間が増えるほど、自然とふれあいう機会は減っていく。これがよいことかどうかは、さらに検討が必要だ。




 以上みてきたように、「まちかど」のアイデアというのは能動主義的な発想に充ち満ちている。新しいアイデアを生み出そうとする人は、「どういうモノが必要か」と考えるよりむしろ、「現代人は、どのような能動的行動が奪われているか」に目を向け、奪われた「能動」を取り戻すためのツールを工夫すればきっと成功する。

 次回に続く。