じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真]  My風景Top100(大サイズ写真アルバム)の第二作は、岡大・農学部東西通りの銀杏並木。2004年11月20日撮影。2048×1536ピクセル。1053KB。

 なお、大サイズ写真は原則として翌日以降、こちらに移動します。



11月20日(土)

【ちょっと思ったこと】

「痴呆」に替わる用語検討

 各種報道によれば11月19日、厚生労働省の“「痴呆」に代わる名称を決める検討会”が開かれ、「痴呆」を「認知症」に変更することで大筋合意したという。

 Googleで「じぶん更新 痴呆」を検索すると88件ヒットする(11/20現在)ことからも分かるように、「痴呆」という言葉は私自身もしばしば使っているところであるが、その言葉の問題性についてはずっと気にしていた。

 04/06/21 第1回痴呆に替わる用語に関する検討会議事録の中で、長谷川和夫・聖マリアンナ医科大学理事長が
...「痴呆」の「痴」というのは、愚か者ということですし、それから連想すると「痴漢」とか「痴情」とか、もっと酷い言葉を連想する。それから「呆」というのは「ボケ」という漢字で「呆然」。そういうことで言葉のニュアンスとして非常に差別用語とまではいかないかもしれませんが、軽蔑語であるというニュアンスがあるのではないかと思うのです。...
と述べておられるように、「痴呆」は「痴」にも「呆」()にも軽蔑的な意味が含まれており、「精神薄弱」や「精神分裂病」がそれぞれ「知的障害」と「統合失調」に改められたのと同様、早急に変更が求められていた。
 この件に関して、長谷川委員は “関西の人がおっしゃる「呆け」と、関東でいう「呆け」と言うのは、ニュアンスが違うのではないかと思うのです。京都の人たちは「ボケさん」と言って、ボケというのはむしろ親しみを込めているのではないかと思うのです。”と発言されている。「呆」のニュアンスについてはかなりの地方差があるようだ。

 さて、この種の言い替えには少なくとも3つの方法が考えられる。

 1つは、カタカナ語に置き換えるという方法。このような形で言い替えられた感染症に「ハンセン病」がある。漢字を使えば文字それぞれの固有の意味や印象を消し去ることができないが、カタカナであればその問題は解消する。もっとも「痴呆」の場合は、こちらの資料にもあるように、脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆に分類されており、さらにカタカナを用いると混乱をきたす恐れも出てくる。
 また英語(ラテン語)「Dementia」(ディメンシャ)は発音しにくい上に、元の意味は「狂気」であり、必ずしも妥当な言い替え語ではないように思える。

 2つめの方法は、「痴呆」の発音はそのままで、別の漢字に置き換えることだ。「障害」を「障碍」と表記する人は、「害=傷つける、損なう、悪い状態にする」という文字を使うことにためらいを感じているためではないかと思われるが、「痴呆」の場合も、例えば「知放」、「知峰」、「知胞」、「知朋」などと文字を入れ替えるとずいぶんと印象が変わってくる。

 3つめの方法は、今回検討されたように、別の日本語に置き換えるというもの。私個人は「記憶統合障害」が妥当ではないかと思っていたが、6つの候補の中では「認知障害」(1118件)、「認知症」(913件)、「記憶障害」(674件)などに支持が集まり、その一方「認知障害」について、「精神医学ですでに使われており、採用されると、精神医学全体に混乱が起きる」、「『障害』などのマイナスイメージのある字は望ましくない」、「短い方がいい」などから「認知症」で意見がほぼ一致したということのようだ。

 なお「認知症」は、こちらの資料の中で長谷川委員が
...例えば「器質性認知障害症候群」ということになると、えらく長いのです。本質症状は認 知障害だと思いますので、「認知」という言葉を入れるのが良いかなと思います。その 場合、「認知障害」でもいいし、あるいは「認知症」。統合失調症の症です。だから認 知病ではなくて認知症、つまり症候群であるということです。
と発言しておられることからみて、当初からかなりの有力候補であったようだ。

 何はともあれ、「痴呆」が別の言葉に置き換わることは喜ばしいことであると思う。もっとも、差別一般がそうであるのと同様、ただ単に差別語を使わないようにすればそれで差別がなくなるということにはならない。

 人間としての尊厳を大前提としつつ、高齢者は我々の大先輩であること、豊富な人生経験があり、我々に及ばない様々な能力を備えた尊敬すべき人々であることは、様々な障害をかかえていても何ら変わるものでない点を心に留めておく必要がある。