じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] オクシペタルム(別名ブルースター、ルリトウワタ)。昨年、行きつけの花屋の処分品で買ったものであるが、株が冬越ししたほか、種でも増えてきた。この花の独特な色を見ると、インドヒマラヤで見たブルーポピーを思い出す。なお、日本の伝統色というサイトでは、本当の「瑠璃色」は「紺色」と同じ色とされている。このサイトで見る限りは、ルリトウワタの花の色は、むしろ、水色、空色、浅葱色の3色に近いように見える。


6月15日(火)

【ちょっと思ったこと】

山形はなぜサクランボの産地か

 桜の一品種であるサクランボは全国どこでも育つはずなのに、なぜ山形が産地になっているのだろう、と長年疑問に思っていたが、本日朝5時台のNHK気象コーナーによれば、これは、山形で6月に雨が少ないことに関係があるそうだ。

 サクランボは種々の果物の中でも特に雨に弱い。いっぽう、6月の山形は、梅雨前線から離れていることに加えて、盆地のため雨が少ない。じっさい、全国の県庁所在地の6月の雨量は、少ない順に、札幌51mm、青森82mm、山形103mmとなっている。サクランボ収穫量の都道府県別の比率は、山形73%、青森8%、北海道7%であり、まさに、雨が少ないということがサクランボ栽培の成功のカギをにぎっているようだ。なるほど、そういうことだったのか。

 ちなみに、岡山が白桃の産地になっているのは日照量が多いためかと思うが、サクランボと違って、桃の収穫は7月中旬以降となる。このころには梅雨明けとなるので、雨の影響を受けずに済むのだろう。こちらによれば、出荷前一週間ほど雨に遭わないで出荷された年は、味は最高とされているそうだ。

【思ったこと】
_40615(火)[一般]心理テストの限界と精神鑑定

 各種報道によれば、長崎県佐世保市の小6女児殺害事件で、長崎家裁佐世保支部は15日、加害女児(11)に対する精神鑑定を行うため61日間、鑑定留置することを決定したという。

 15日の朝、このことに関して、とくだね!」というTV番組で「犯行の異常性…精神鑑定決定小6女児は今」などという話題を取り上げていた。ちょうど出かける間際だったため、ごく一部しか視ていないが、そこでは、精神鑑定の際に用いられる心理テストとして、文章完成テストとバウムテストが、かなりいい加減に紹介されていた。
  • 文章完成テスト。「Sentence Complection Test」を略して「SCT」と呼ばれることもあるが、番組ではなぜか「STC」と間違って呼んでいた。番組では、「私は父を_____」という空白部に「尊敬している」と書き込めば正常だが、「殺したい」と書けば異常だなどと言っていた(←長谷川の記憶によるため、不確か)。
  • バウムテスト。白紙に普通の木を描けば正常だが、枯れ木を描いたら「感情が枯れている」(←長谷川の記憶によるため、不確か)。
というような説明のあと、「この程度のことで、精神は鑑定できるんでしょうかねえ」というような内容であったようだ(←途中までしか視ていないので、不確か)。

 心理学をやっている者として、こうした紹介のされ方については、2通りの不安がある。1つは、「精神鑑定」という言葉が、「精神を鑑定する」という文字面に引きずられて一人歩きしているのではないかという不安、もう1つは、心理テストの利用目的や限界について誤った受け取り方をされてしまうのではないかという不安である。

 このうち前者については、碓井さんのサイトや、西日本新聞の用語解説などに詳しく説明されているので、ここではこれ以上は述べない。




 もう1つの心理テストの件だが、Webサイトなどでよく見かける娯楽目的の「心理テスト」や占いと同じような扱いで、安っぽく紹介されることには大いに不満がある。その一方、投影法の心理テストに対しては、信頼性や妥当性という点でいろいろな問題点が指摘されていることも事実であり、テストの有効範囲や結果解釈の妥当性について慎重な判断が求められることも忘れてはならない。

 これに関して、『あてにならないロールシャッハテスト』(日経サイエンス 2001年8月号、原著者 Scott O .Lilienfeld/James M. Wood / Howard N. Garb。原題 What's Wrong with This Picture? 、SCIENTIFIC AMERICAN May 2001)という記事のことを思い出した。この記事では、ロールシャッハテストを初めとする投影法心理テストについて、膨大な研究資料に基づいた系統的なリビューが行われ、「投影法テストは殆ど信頼できない」という結論が下されている。

 例えば本文には、「6人に1人が精神分裂病(←2001年当時の呼称)」というショッキングな調査結果(1999年)が紹介されている。カリフォルニアで献血に協力した123名の成人を対象にロールシャッハテストを実施し、その結果をある種の方法で得点化したところ、1/6の人の反応が,精神分裂病と評価される数値を示したというのである。このほか、「TAT(主題統覚検査)を直観的に解釈する臨床家は、心理的な異常を過大に診断する傾向があるというエビデンスも出ている」といった問題点、バウムテストなどの描画テストの問題点についても、批判的証拠が数多く挙げられている。

 バウムテストについては私自身、実際に描かれた絵を満載した症例集を読んだことがあるが、非行、閉じこもりなどの情報を得た後で、それらにつじつまがあるように絵を事後解釈しているような気がしてならなかった。

 なお、上掲の日経サイエンスの記事では、文章完成法テストについて、「あまり研究はされていないが,ワシントン大学のルーピンガー(Jane Loevingor)が考案したバージョンは,道徳性や共感性など,自我の発達を示す側面を測定するのに妥当性が認められた。」と、一部肯定的な評価も与えられていた。

 なお、同記事では、翻訳者の木島伸彦氏(慶應義塾大学)が適切なコメントをつけておられる。木島氏は、臨床家が自らの勘と経験で診断しそれを権威づける「3K診断」(「勘」と「経験」と「権威」)、つまり、信頼性も妥当性も実証されていないにもかかわらず、勘と経験で投影法心理テスト結果を解釈し、それを権威づけるという行為が行われていることに言及し、その一方、投影法テストは、精神疾患などを診断するために用いるよりも、クライエント自身の「心的内面世界」を共感しようとする「かかわり分析」として役に立つ場合があることにも言及されている。

 私自身も、投影法テストは、何かを客観的に測るツールというより、クライエントとのコミュニケーションツールとして有用であろうと考えている。