じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

5月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

[今日の写真] [今日の写真] 文化科学研究科(及び放送大学)棟前のガザニアの大花壇。これだけの規模の花壇は、そう滅多には無いと思う。ガザニアと言えば、かつては種を撒いたり、1ポット98円の苗を買ってきて移植するなど、大事に育てたことがあったが、この大花壇出現後は、自分で育てようという気力がすっかり失せてしまった。


5月11日(火)

【思ったこと】
_40511(火)[一般]コンコルドの誤り

 某所で「コンコルドの誤り」とは何かということが話題になった。最近は、動物行動学の本や論文は一冊も読んでいない私であるが、この言葉自体は、今年の東大の入試問題(後期、論文2)に出題されていたので、すぐに思い出すことができた。問題は、毎日新聞サイト、解答例は駿台予備校サイト(解答例は3例用意されている)にあり、すぐに内容を知ることができる。

 ところで、元の問題文には、受験生には読み間違えやすい部分がある。この文では「コンコルドの誤り」というのが行動生態学分野の考え方の1つであること、また、諦めの悪い雄の行動を説明する考え方として紹介されているが、筆者(長谷川眞理子氏)は、そのような説明を否定している。そのことについては、「これは理論的に誤りなのである。」と述べ、さらに「将来の行動に対する意思決定は、過去の投資の大きさではなく、将来の見通しと現在のオプションによらねばならない」(←但し、動物がそのように思考するように進化したのではなく、行動を導く一連の生理的過程がそのように進化したという意味)と強調している。そして、問題文最後の段落にあるように、動物自体は「コンコルドの誤り」は犯さないこと、誤りを犯すのは、人間特有であり、人間の特別の思考形態が深くかかわっているのではないか、と結んでいる。

 出典の『科学の目 科学のこころ』を読んでいないので、この文章がこれで完結しているのか、それとも、そのあとに人間の思考形態について詳しい言及があるのか分からないが、駿台の解答例1のように、ゲーム理論やドミノ理論に言及すれば、解答としては完璧であろう。もっとも、そこまで答えられる受験生が居たとしたらスゴイと思う。

 もっとも、現在進行中のイラク戦争を「コンコルドの誤り」と関連づけるのは、冒頭に書いたほど容易ではないかもしれない。駿台の解答例1では、「9.11の衝撃を抑制できない」とか「キリスト教的“正義と悪”」の下支えに言及しているが、「抑制できない」というのはとうてい思考過程ではないし、どっちにしても、なぜ先制攻撃に踏み切ったか、という部分までしか説明できない。アメリカがベトナム同様の「コンコルドの誤り」を犯すかどうかは、むしろ、これから先数ヶ月にかかっているように思われる。

 そういう意味では、駿台の解答例2のように、公共投資を取り上げたほうが答えやすかった可能性もある。しかし、解答例の中でも言及されているように、地元政治家の集票機構、あるいは政官癒着といったものは、もはや思考過程ではない(←ということは、これでは正解にはならないのか)。昨日、諫早湾干拓の開門調査見送りのニュースが伝えられたが、あの干拓工事なども、結局は、目先の利益(工事、漁業補償金など)ばかりを優先させる勢力によって押し切られただけという感じがする。

 そもそもの「コンコルド」の誤り自体も、別段、人間特有の思考過程が原因ではなく、諸々の利害関係のしがらみのなかで、結果的に先延ばしされてきただけなのかもしれない。個人レベルでは、ギャンブルや投資の損失を取り戻そうとする時に似たような行動が見られるかもしれないが、それだって、眞理子氏自身が言う「オプションの欠如」で説明できるかもしれない。また、ジュリエットに出会う前のロミオのように、恋人選びだってオプションがあれば、速やかに方向転換とういこともありうると思う。

 と、いろいろ考えてみるに、「コンコルドの誤り」というのは、おそらく人間の思考過程に由来するものではない。集団の討議場面で、相手を説得するためのロジックとして持ち出され、後にその選択が誤りであったことが歴史的に証明されたようなケースをそう呼んでいるだけなのかもしれないと思ってみたりする。

追記]
「コンコルドの誤り」を現象の記述概念として用いる限りは、解答は容易。ある種の説明のしかたと考えると、解答は難しいし、適切な事例も浮かばない。元は、説明概念であったのだけれど。