じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 研究室の窓際で育てている洋蘭のうち4種が一斉に花を開いた。私の自慢は、これらが貰った鉢ではなく、すべて自力で育てた株であるということだ。


2月27日(金)

【思ったこと】
_40227(金)[心理]「一般的に言えること」って何だ?

 某大学の英語入試問題に「次の英文中に論じられている事例から一般的にどのようなことが言えるか。」という設問があった。次の英文を訳せとか、要約せよというなら分かるが、「一般的に」などと言われるとどう答えてよいのか迷ってしまう。

 初めにその英文の概略を私なりに訳してみよう(かなり意訳)。
 チェスの名人は、コマの配置について抜群の記憶力がある。ある研究によれば、ほんの5秒間、実戦場面の配置を見せられただけで、25すべてのコマの配置を覚えることができる。初心者では5つぐらいしか覚えられないのに。またそれは、意図的に覚えておこうとしなくても保持される。しかし、コマが、実戦場面ではなくランダムに並べられていた場合は、名人の記憶は初心者並に低下してしまう。

 熟達した俳優の場合もまた、その持ち場で抜群の記憶力を発揮する。長い台詞を覚える記憶力はチェス名人に匹敵する。最近の諸研究では、俳優は一語一語を逐次的に覚えるのではなく、全体の文脈に意味づけて記憶していることが明らかにされている。覚えようと努力するというより、自然に覚えられていくものだと当人は語っている。

 この問題に関して、ある予備校の解答例は、
ある分野において、長年経験を重ね、その分野特有の意味に熟達した人は、自分の守備範囲の状況に対しては超人的な能力を見せるものだ。
と記されていた。また別の予備校の解答例には
記憶の天才と見られる人は長年の経験に基づく専門分野の知識と状況把握力が身についており、それが場面場面に対応する超人的な記憶の形で現れる。
とされていたが、いくら「一般的に言えること」となっていても、ちょっと抽象的すぎるのではないかと思う。また、何が記憶力を高めているのかもはっきりしていない。私ならばたぶん、
断片的ではなく分野特有の知識で関連づけ意味を持たせるとたくさんのことが正確に覚えられる。記憶の達人と言われる人はそれを自然に身につけている。
というように書くだろうが、さて、それぞれ何点くらいもらえるのだろうか。

2/28追記]
2/28に上記の予備校のサイトにアクセスしたら、解答例が一部修正されていた。
  1. ある分野に秀でた人は、自分の得意分野に関する記憶を行う際に、断片的に個々の情報を覚えていくのではなく、全体と関連付ける形で暗記していく。
  2. (別解)物事に熟達した人が、意識せずとも細かい点まで正確に記憶できるようになるのは、全体の意味との関連付けを行っているからである。
  3. 【別の予備校】どんな人でも意味のあることや必然性のあることしか記憶できないことから、記憶は意味を探る過程で自然に生じる副産物だと言える。
 このうち1.は、記憶の達人が自然にそれをやっているという部分が欠落している。また「記憶を行う」というのは日本語としてちょっとヘン。3.は、さすが○○予備校!と言いたいくらいの知的な解答。原文の筆者はおそらくそういうことを言いたいのだろうが、「どんな人でも〜できない」とか「記憶は〜だと言える」というのは、問題文だけからの情報ではちょっと言い過ぎではないだろうか。





 ところで、私自身がむしろ興味を持ったのは、「事例から一般的にどのようなことが言えるか」という問いかけであった。もし「一般的に言えること」を「一般法則を導け」と捉えると、これはかなり難しい。そもそも、個々の事例や実験だけから、ある一般法則が正しいということは実証できないはずである。ひょっとして、「一般的に言えることは何もない」というのが正解かもしれない。

 もう少し柔らかく考えて、「これらの事例に反しない形で控えめに言えることは何か」という意味にとらえるならば、

●ある場合には、ある現象が起こることがある。(「絶対に○○が起こらない」とは言えない)

という形で記述すれば、間違いとは言えなくなる。しかしこれでは、「○○は起こるときも起こらないときもある」と言っているだけで情報的価値が少ない。

 出題者の意図はよく分からないが、「一般的に言えること」というのが結論の外的妥当性を意識したものなのか、論理的な整合性を意識したものなのか、受験生に対してもう少し説明が必要ではなかったかと思ってみたりする。