じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 夕食後の夫婦の散歩時には、必ず「わんこ」に餌を持っていてやるのだが、11日の夜には、なんと、妻がハムのかたまりを丸ごと与えようとしていた。わんこはあまりのボリュームの大きさにびっくりして、最初はぺろぺろ、次には口を大きく開けて必死にかぶりつこうとしていた。私が

いくらなんでもそれは多すぎるよ。そんなことしたら、わんこの夢が無くなってしまうじゃないか。少しずつやるから、楽しみに待っていてくれるんだよ。

というと、妻はしぶしぶ、ハムの残りを袋につめて持ち帰った。さて、翌日の食卓には、正月以来初めてというハムが登場したが、あまりのタイミング良さに、もしや...!?


2月12日(木)

【思ったこと】
_40212(木)[心理]批判的思考の認知的基盤と実践ワークショップ(3)批判的思考力の教育は可能か

 2月8日(土)に京大で行われた表記ワークショップの感想の続き。

 道田氏の話題提供後半では、ご自身の大学の実践例が紹介された。興味深く感じたのは、1年時と4年時に「批判的思考テスト」を行った縦断研究で、テスト得点が低いままの学生、高得点を維持した学生、得点を増加させた学生、得点を低下させた学生、という4タイプそれぞれの学生が居たことであった。とうぜん、全体の平均値を比較しても有意な増加は確認できない。これだけでは、大学4年間の教育は、批判的思考力の養成に役立っていなかったと結論づけられてしまう。

 もっとも、4つのタイプについて個人レベルで原因を調べてみると、たとえば、アルバイト体験が増加に役立ったとか、同じ授業を受講していても学ぶ姿勢(教わった内容をどう活かすか)の違いなどが影響を与えていることが覗えた。

 クリシンの領域特殊性についても言及しておられたようだったが、単に多因子の存在を示唆されたのか、個々の領域内での発達の証拠をお持ちなのか、このあたりは聞き取れなかった。




 続く話題提供は、元吉氏らによる、クリティカルシンキング志向性に関するものであった。クリシンというと、ふつう、批判的思考能力の部分に目を向けられがちであるが、そもそもクリシンの必要性を感じているのか、そういう能力を身につけたいと思っているのか、という志向性を高めることも必要というわけだ。

 いくつかの調査項目を用いて、教育学部生に対して縦断的研究を行ったところ、クリシン3つの側面のうち、「誠実性」は上昇したが、「客観性」や「探究心」については有意な上昇は見られなかったという。このほか、大学間の格差もあまり見られなかったようだ。




 道田氏と元吉氏のご発表からは、ある教育をすれば「クリシン力」が劇的に増加するというような証拠は得られていないように思えた。大学4年間の教育は「クリシン力」の養成にあまり役立たない、と極言できるかもしれない。しかしそうなると、大学の教育目標に「批判的思考力の養成」などとうたっても、ウソをついたことになってしまう。

 もっとも、まだまだ検討の余地は残っていると思う。

 まず、大学の格差はあるにせよ(←元吉氏の発表ではあまり差はなかったようだが)、大学生というのは入試によって選び抜かれた集団である。高校までにある程度の批判的思考力が磨かれているとするなら、入学後に調査してもドングリの背比べであり、変動は誤差の範囲内か、ちょっとした態度の変化の反映ということになってしまう。そういう意味では、中高生における縦断的研究の結果が待たれる。

 次に、「クリシン力」を測る物差し(=尺度)がまだまだ不十分という可能性もある。

 また、しばしば「教養教育の成果は短期的な数字の変化には表れにくい」と主張されるように、より長いスパンでの成果や、量に還元しにくい質的成果にも目を向ける必要があるだろう。

 今の段階で、私が自信を持って言えるのは、心理学研究を10年、20年と続けていれば、少なくとも心理学領域での批判的思考力は抜群に伸びるだろうというこだ。これは、私と同学年、もしくは後輩にあたる人の、学部・大学院時代に発表したレベルと、いま現在、研究者として話題提供されているレベルを比較すれば一目瞭然である。ただしそれが、心理学教育を受けて育ったものなのか、自主的な勉学の積み重ねによるものか、あるいは種々の討論や論評を重ねることで自然に身につけられたものなのかは定かではない。

 次回に続く。