じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 今年の夏は借りている畑でミニトマトがたくさん収穫できたが、最低気温が15度を下回るようになったとたんに勢いが衰え、実が色をつけることもなくなった。今年のトマトもこれで終わりか。

ミニトマトと言えば、先日面白いエピソードを聞いた。あるお年寄りに普通の大きさのトマトを食べてもらったところ、「これはトマトじゃない」と言われた。今のトマトはサラダ用の品種であるうえに完熟前に収穫してしまうため、昔のトマトの味になっていないというのだ。そこで今度は、昔の味に近いと言われるミニトマトを食べてもらう。するとそのお年寄りは「これは土が悪い。だからこんなに小さいのしかできないのだ」と言ったという。

 写真は、今年私が育てたミニトマト。10月3日撮影。


10月15日(水)

【思ったこと】
_31015(水)[心理]「ためしてガッテン:みつけた!ダイエットの秘策公開」って、結局、行動分析の応用じゃないか

 夕食時にNHK「ためしてガッテン:みつけた!ダイエットに成功する本当の理由 脳が決め手!納得の秘策大公開」を視た。

 毎年定期健診で肥満気味と体脂肪過多の注意を受けているところでもあり、この新聞テレビ欄の宣伝文句が気になり、最後まで視たが、なんていうことはない、行動分析や心理学の概論書などに書かれているセルフコントロール(マネジメント)の初歩を紹介しただけであった。以下、番組記録を参照しながら考えを述べることにしたい。

 番組ではまず、ダイエットに失敗してリバウンドが起こる原因として、レプチンの作用を挙げていた。レプチンは脂肪細胞が作るホルモンであり、脳に働きかけて、食欲を抑えたり、基礎代謝を上げる働きをする。あまり短期間に体重を減らそうとするとレプチンが減りすぎ、食欲を抑えることができなくなってしまう。そこで、毎日2回、100グラム単位で体重を計り、結果をグラフに記しながら少しずつ減量をめざすのが成功のコツというわけだ。かなりの人は、グラフを描くだけでも減量が実現する。それが「計るだけダイエット」である。またグラフが下がらない人も、その特徴を分析することで、肥満をもたらす悪習慣を見つけ出して改善に役立てることができる。番組で募集した100人が3週間挑戦した結果、初日より体重が減少した人(おおむねマイナス0.5〜15kg)は83人、増えた人9人、途中で脱落した人8人ということで、かなりの成果が実証されたという。




 私が疑問に思うのは、番組記録サイトに記されてあった次のような宣伝文句である。
 数知れない食品と運動法がブームを起こしては消えていくダイエット。女性たちが挑戦し、失敗してしまうことが多いのは、従来のやり方が、脳のメカニズムを無視していた方からなのです。最新の研究で、挫折の理由は、「意志の弱さ」ではなく「化学反応」だったことが判明しました。...
挫折の理由が「意志の弱さ」でないことはその通りであろう。しかし「化学反応」が原因というのはいかがなものだろうか。

 上にも述べた通り、番組では、確かに「化学反応」に言及されていた。すなわち、
  1. 短期間に体重を減らそうとすると
  2. レプチンが減りすぎ
  3. 食欲を抑えることができなくなり
  4. 我慢できなくなって
  5. 誘惑に負けて
  6. たくさん食べてしまい
  7. リバウンドが起こる
という仕組みである。しかし、ここで必要な情報は、「短期間に体重を減らそうとすると腹が減りやすくなり、たくさん食べてしまいがちである」というだけである。「意志の弱さ」を説明変数に使う必要が無いことはもちろんだが、レプチンが増えようが減ろうが、化学反応に関する情報はダイエット法には直接役立たない。



 番組ではまた、
ダイエットの挫折の理由としてアブラや糖分の誘惑があります。これらはやめるのがとても難しいと言われています。最近になってアブラや糖分をとると脳の中に快感物質(β−エンドルフィン)が出ることがわかってきました。これは麻薬と同じようなつよい快感を脳に与えるため、執着してしまうのです。これがアブラや砂糖をやめにくい理由です。
というように、快感物質(β−エンドルフィン)という「化学反応」にも言及した。しかしこれも、「意志の弱さ」が誘惑に負ける原因ではないという理由づけにはなるが、ダイエット法自体に役立つ情報は何ももたらしていない。


 では、結局、何がダイエットの秘訣なのかと言えば、番組サイトのイラストにもあるように、
  • 大きな目標を立てすぎると、食べ物がもたらす「快感」に対して「我慢」を強いられるため「不快」となる。
  • 1日50〜100gの小さな目標を立ててグラフをつけると、右下がりが大きな「快感」となって、食べ物の「快感」に打ち勝つことができる。
ということになるのだという。これは
  • β−エンドルフィンに打ち勝つダイエット法の快感はグラフの右下がり(=体重の減少)である。→グラフが右に下がるという結果は強化的である
  • 目盛の細かい体重計を使えば、細かい変化でも喜べるので成功しやすい。→個々の行動をこまめに強化するとよい
というように言い換えることもできる。また、参加者から伝えられたコツ:
  • 体重計はふだん良く通るところに置けば計り忘れを防げます。
  • グラフは目に付くところに貼れば、変化を常に楽しめます。
というのも要するに強化機会を増やすテクニックということになる。

 ということで、ダイエットが失敗しやすい原因は決して意志の弱さにあるのではないということを示した点では評価できるが、同時に、化学反応や脳内物質についての知識は、改善法とは直接関係の無い情報であることを見事に示している。もし、それらの知識を活用するのであるなら、レプチンやβ−エンドルフィンを直接投与するような方法を紹介すべきであった。




 今回の番組では100人中83人がこの方法で成功をおさめたと紹介されているが、これではまだまだ不十分であると思う。

 その第一は、「ダイエットにつとめる」という行動の具体的な中身が曖昧になっている点である。一口にダイエットにつとめると言っても
  • 増やすことによってダイエットに貢献するような行動→運動
  • 減らすことによってダイエットに貢献するような行動→甘い物や脂肪分を食べる行動
という二種類がある。前者は正の強化の対象であるが、後者は、行動を減らしていかなければならないので弱化の対象となる。グラフが右下がりになることが「快感」だと言われるが、本質的には

●「食べる」行動を減らせばやがて好子(=右下がり)が出現するが、行動を続けるとそれが阻止される

という「好子出現阻止」により弱化されるものである。これはなかなか難しい。となると、「右下がりにならなかったら罰金」というようなより強力な結果を付加する必要が出てくる。

 第二は、いくら体重計の精度を高めたところで、食事の量が(胃腸の内容物を除いた)体重に反映するのはかなり後になってからであるという問題点だ。この遅延を克服するためには、もっと直後に生じるような変化を指標にしていく必要がある。食べる量自体とか、歩数計などを指標に強化をしていったほうが効果が上がるはずだ。

 今回の番組で100人中83人が成功というのは、おそらく、500グラムから1500グラム程度の減量であればこそだったと思う。5kg以上の減量となると、いくら時間をかけてもこの方法だけで達成できるかどうかは疑問である。