じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 松葉ボタンのお花畑。ポーチュラカ(花スベリヒユ)人気に押されて育てる人が減ったように思うが、真夏の花はやっぱりこれに限る。


7月28日(月)

【思ったこと】
_30728(月)[心理]臨床心理士派遣よりも環境改善が先決

 7月29日朝5時台、6時台、7時台のNHKニュースのトップ項目は、いずれも「地震の被災者に心のケア」であった。26日に震度6の地震を3回も記録した宮城県北部では、その後も余震が続き、有感地震は301回、いまなお2300人余りが避難所生活を送っているという。

 4日目を迎えた被災者の中には、不眠や物音に過敏になるなどの症状を訴える人も出てきたため、宮城県は住民が希望する場合には臨床心理士などを派遣することを決めた。以上がニュースの概要である。

 臨床心理士の資格についてはこちらの連載でいろいろな問題点があることを指摘したが、ここではそのことはふれない。それ以前に、「避難所の劣悪環境がもたらすストレスを心のケアの問題にすり替えてしまう」という発想に重大な欠陥があるように思う。

 ひとくちに心のケアといっても、その対象となる人たちには3つのタイプがあるように思う。

 1つは明らかに神経生理学的に異状が認められるような場合で、これは医師に診断を仰ぐしかない。この場合、医療の一環として心理療法の併用が効果を挙げることもある。

 2番目は、大切な人を事故で失ったり、人間関係上のトラブルで行き詰まったような場合。この場合は、医師を頼っても何も解決しない。資格問題は別として、カウンセリングやグループセラピーが効果を発揮する場合もある。

 第3は、ストレスの原因が明らかに環境側にある場合だ。ジェット機や自動車の騒音に日々悩まされている人にカウンセリングを行っても限度があるのは目に見えている。そういう時には何はともあれ、騒音の除去につとめなければならない。

 地震災害の場合ももちろん3つのタイプがありうるだろう。阪神淡路大震災の時には2番目が大きな問題となった。しかし、今回は、幸いなことに人命が奪われることはなかった。ニュースを見る限りでは、余震そのものへの怯えや、避難生活が長期化することによるストレスが問題になっているようだ。

 であるならば、「心の問題」に帰属させる以前に、まずは、避難所の環境改善を考えるべきだろう。TVの映像で見る限り、被災者の方々は、相変わらず体育館の床にマットや毛布を敷いただけの劣悪な環境で避難生活を送っておられるようだ。もちろん、何万人もの被災者が出た時にはそういう環境に一時的に耐えることもやむを得ないかもしれない。しかし、避難を必要とする人が2000人程度に減った時には、近隣の旅館、ホテル、民宿でも十分受け入れが可能なはずだ。被災者が温泉旅館に泊まることはちっとも贅沢にはあたらない。ストレスを受けやすい状況にあればこそ、最善のもてなしをすることが先決なのである。

 このほか、余震に怯えるような状況があるならば、とりあえず数週間ほど、揺れる心配の無い近隣県の宿泊施設に引っ越ししてもらってもよいのではないかと思う。

 繰り返すが、体育館にマットと毛布だけを並べて、それで耐えきれない人が出たら無料でカウンセリングしましょうなどというのは本末転倒。まずは、カウンセリングなどに頼らなくても済む避難環境づくりにつとめるべきである。




 もう1つ、ここからは地震災害に限定しない一般論になるが、サービス過剰で自立的生活が損なわれつつある現代社会にあっては、
  • 自転車がパンクしたら自転車屋へ
  • 車が動かなくなったらJAFを呼ぶ
  • 水道の蛇口が壊れたら水道屋を呼ぶ
  • 台所のゴミはみんなゴミ収集所へ
  • テレビの映りが悪くなったら電気屋を呼ぶ
というように、自力での解決を最初から諦め、何でもかんでも専門業者に頼り切ってしまうという風潮がある。その延長上で、

●心の問題の解決は何でもかんでも臨床心理士へ

という発想があるとしたら、それは非常に危険であり情けないことだと思う。

 生活上のどんな問題でもそうだが、まずは自己解決力を身につけることが大切。自分一人で困難な時は、身の回りの仲間と一緒に解決する。それでもなお困難な時に初めて専門家の助けを借りるという態度が求められる。学級崩壊やイジメなどもそうだが、まずは、クラス構成員が自力で解決に取り組めるような環境作りが必要。環境改善の努力を怠り、個々の悩みごとはすべてスクールカウンセラーに任せればいいなどという第三者的な発想がある限りは根本的な解決にはつながらない。

 TVのニュースで伝えられた限りでは、避難所におけるストレスや家屋倒壊のショックのような問題は、(1)避難場所の環境改善、(2)被災者どうしの助け合い、(3)ボランティアとの交流などによって十分に対応が可能であり、安易に「心の問題」にすり替えるべきではないと考える。派遣されると言われる臨床心理士が、いったいどういう相談を受けたのか、そこでどういう貢献をしたのか、行政側の対応を含めてきっちりと第三者評価をおこなってもらいたいところだ。