じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 高3の息子が『大学への数学』の定期購読を4月号から始めている。1回目の学力コンテストでさっそくバインダーを獲得し、6月号に初めて名前が掲載された。『大学への数学』と言えば、33年前に、私自身も愛読していた雑誌であった。当時は“今月の宿題”という、エレガントな解法を求めるコーナーがあり、私自身はそちらのほうに情熱を注いでいた。たっぷり時間をかけてマニアックな解法を見つけることにこだわっていたため、入試本番は最悪。しかし楽しい思い出となっている。ちなみに、
  • 1970年6月号(第14巻)280円 本文80ページ
  • 2003年6月号(第47巻)1100円(税込)本文96ページ
となっていた。


5月26日(月)

【思ったこと】
_30526(月)[教育]岡大版“先輩に学ぶ”(1)企業エンジニアの体験談

[写真] “特別講義『先輩に学ぶ』〜学生企画による学生参加型〜”(岡山大学教育開発センター、岡山大学学生・教員FD検討会の共催)が、5月26日の10時15分から12時10分まで、岡山大学創立五十周年記念館・多目的ホールにて行われた。1コマ目の授業を終えて10時25分頃に会場に入ってみたところ、400人収容のホールはすでに満員、立ち見席が出るほどであった。ちなみに、この行事は、完成したばかりの五十周年記念館の最初のイベントということになる。

 この特別講義では、学長の挨拶に続き、岡山大学の工学部と法学部を卒業した先輩が、それぞれの体験談を40分ずつ語った。そのあと、短時間ではあるが、学生からの質問も受け付けられた。

 最初の講義は企業エンジニアのU氏による研究開発の体験談であった。成功談として、ビデオカメラの手ぶれ補正技術と、高ダイナミックレンジ撮影技術の開発、また失敗談として、3次元撮影技術の開発、最後に企業エンジニアとしての経験則が語られた。

 手ぶれ補正技術というのは、例えば、車窓から外の景色をビデオ撮影する時に画像がぶれないようにする技術のことである。カラコルムハイウェイや東チベットの悪路を旅行した時には、この技術の有難味をつくづくと感じたものである。この開発で面白いと思ったのは、あらゆる状況に完璧に対応しようとすると、思わぬ困難にぶつかるということだ。ではどうするか。それはアルゴリズムが破綻する場合を自動判定し、ユーザーにそれを感じさせない方法を組み入れることだという。

 なるほど、確かに、ユーザーは、あまりにもひどい揺れがあった時には、画像がぶれていてもクレームをつけない。クレームというのは、製品に対する客観評価ではなく、不具合が起こった時の文脈や印象によって決まってくるものだ。講演者はBLACK BOX技術であるとして、それ以上語らなかったが、技術向上とは別に、クレームを起こりにくくするような心理学的な技術というのも求められるのではないかとふと思った。




 2番目の高ダイナミックレンジ撮影技術の開発というのは、比較的暗い室内の風景と、窓の外の明るい景色を同時に鮮明に写すための技術である。単純に考えると、室内と屋外、それぞれの明るさに合わせた画像(=多重露出)を撮影して合成すれば済むように思えるが、そう簡単ではないらしい。なぜなら、いくら撮影の段階で幅広い明るさに対応できたとしても、ディスプレイ側のレンジには限界があるためうまく表現できないからである。その際にはなんと、知覚心理学の法則を活かした錯視処理が用いられたというから驚きである。このほか、物理的には同じ明るさであっても、まわりとの対比で明るさが異なって見える場合もあるし、視野の中で面積の広い空や海の明るさに平均化されてしまう場合もある。いずれにせよ、「きれいに見える」とは、物理的に正確に見えることではない。錯視をうまく取り込んで初めて、肉眼で見えるのと同じだと実感することができるのである。

 ところでこの2番目の開発、単に、ユーザーに満足感を与えるだけの技術かと思ったが、実は、思いもよらない場面で実用的価値を発揮していた。それは、建物の出入り口に設置される防犯カメラであった。防犯カメラでは、ガラス越しに見える外の景色(車のナンバー、乗降者)と、入り口から入ってきた人の顔の両方を鮮明に写す必要があるからだ。

次回に続く。