じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

3月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

[今日の写真] 3月19日、岡大西門前(時計台前)に突然スクランブル交差点が出現した。この交差点は、休み時間などに北キャンパスと一般教育棟との間でかなりの数の学生の移動が見られる。その時間帯に限っては、南方向からの車は殆ど右折できない状態が生じていた。
スクランブル方式にすることで、横断者が右折・左折者を妨げることは無くなったのだが、逆に、全方向横断可能時にはすべての車の流れが止まる。横断者が全く居ない時でも止められるため、朝夕はかなりの渋滞になっていた。しばらく様子を見ないと分からないが、時間帯別の車の通行量と横断者の数についてのデータ分析が甘かったのではないかと思わざるをえない。

3/20追記]
岡山市内の珍しい交通信号についての情報がhttp://www.trafficsignal.jp/~iida/t_okayama.htmにあった。


3月20日(木)

【思ったこと】
_30320(木)[心理]科学は平和な社会を創れるか

 アメリカによるイラク攻撃のニュースを聞いて『科学と人間行動』[Skinner, B. F. (1953).Science and human behavior. New York: Macmillan.]の最初の部分を読み返してみたくなった。この本、だいぶ前に翻訳書刊行の話があり、私も4〜6章を訳し終えているのだが、いっこうに出版に至っていない。50年前の本とはいえ、内容の重要性はいまもって変わらない。というか、50年前の主張がちゃんと実現されなかったことが今日の不幸を招いてしまったとも言える。なお以下の訳は、長谷川が講読の教材として試訳、大学院生が修正、今回さらに一部を意訳したものである。

 いま行われている戦争は、関ヶ原の戦いのような人と人との斬り合いではない。ベトナム戦争で見られた自動小銃による血みどろの戦いでもない。ハイテクと情報を駆使した戦いである。実際には多くの人が殺されているのに、ベトナム戦争当時と違って死体1つ見えてこない。これらはすべて、科学の「発展」によってもたらされたものである。

 無差別大量殺戮をもたらしたヒロシマ、ナガサキの原爆に比べると、現時点でのアメリカの攻撃は一般市民の犠牲を最小限に抑えるように設計されたピンポイント型の破壊であるとは言われる。この点では科学は一定の貢献をした。とはいえ、武力を用いて物事を解決しようとしている点では何ら変わっていない。また、その攻撃の根拠となったイラク側でも大量破壊、大量殺戮兵器が作られていたと伝えられている。全体として、科学は平和の実現のためではなく、武力の優越を競い合う手段として悪用され続けている。

 テレビ番組では、あたかもスポーツの実況中継のように戦況が刻々と伝えられる。軍事評論家は時には薄気味悪い笑いを見せながら、淡々と兵器の解説をする。

 以下は一部かなり意訳してある。「.....」部分は省略。

THE MISUSE OF SCIENCE/悪用される科学

By the middle of the seventeenth century it had come to be understood that the world was enclosed in a sea of air, much as the greater part of it was covered by water. A scientist of the period, Francesco Lana, contended that a lighter-than-air ship could float upon this sea, and he suggested how such a ship might be built. He was unable to put his invention to a practical test, but he saw only one reason why it might not work:
/17世紀の中ごろまでには、世界の大部分が水で覆われていることと同様に、世界は空気の海に囲まれていると理解されるようになった。その時代の科学者であったFrancesco Lanaは、空気よりも軽い船はこの空気の海を浮かぶことができると主張し、そのような船の造り方を提案した。彼はその発明を実用化できなかったが、それがうまくいかない唯一の理由は次の点にあると予見していた。
' . . . that God will never suffer this Invention to take effect, because of the many consequencies which may disturb the Civil Government of men. ..........
/「…神はこの発明が効果をもつことを決して許さないだろう。なぜならそれが成功すると、人間の政治を乱す結果が多発するからである。..........
Lana's reservation was groundless. He had predicted modern air warfare in surprisingly accurate detail-with its paratroopers and its strafing and bombing. Contrary to his expectation, God has suffered his invention to take effect.
/Lanaが言う禁制は根拠がなかった。彼はパラシュート部隊や地上掃射や爆撃による近代の空襲を、驚くほど正確に細部まで予言していた。しかし彼の予想に反して、神は彼の発明が効果をもつことを許したのであった。
And so has Man. The story emphasizes the irresponsibility with which science and the products of science have been used. Man's power appears to have increased out of all proportion to his wisdom. He has never been in a better position to build a healthy, happy, and productive world; yet things have perhaps never seemed so black. Two exhausting world wars in a single half century have given no assurance of a lasting peace. Dreams of progress toward a higher civilization have been shattered by the spectacle of the murder of millions of innocent people. The worst may be still to come. Scientists may not set off a chain reaction to blow the world into eternity, but some of the more plausible prospects are scarcely less disconcerting.
/そして人類も同様である。この話は科学と科学による生産物の無責任な使われ方を強調している。人間の能力は知恵による歯止めがきかないほど増大した。人間は健康で、幸福で、生産的な世界を築くのに好都合な立場におかれてはいなかったが、まだ物事はそこまで暗い事態ではなかった。わずか半世紀の間に起きた2度の世界を疲弊させる戦争で平和が永遠に続く保障がなくなった。文明をより高度に進歩させたい夢は、数百万の罪なき人々の殺害という光景によってうち砕かれた。最悪の事態もまだ起こりうるかもしれない。科学者は世界を永遠に吹き飛ばしてしまうような破滅の連鎖を始動させるほど愚かではないだろうが、危惧がないわけではない。
. .....Science has made war more terrible and more destructive. Much of this has not been done deliberately, but it has been done. ..........
/.....科学は戦争をより悲惨で破壊的なものとしてしまった。大部分は故意に行われたものではないが、とにかく起こってしまったのは事実だ。..........
   It is not surprising to encounter the proposal that science should be abandoned, at least for the time being. This solution appeals especially to those who are fitted by temperament to other ways of life.  
/少なくとも当分の間は、科学を放棄すべきだという提案がなされても驚くには当たらない。この解決は、近代的生活とは別の生活スタイルの方が気質に合う人々を特にひきつける。

 こうしてみると、科学が本当に人類の平安な生活の実現に貢献したのかは甚だ疑わしい。スキナー自身は、「そうは言っても、科学を封印してしまったのでは、人類は、重労働や疫病に苦しむことになる。科学を否定するのではなく、科学を正しく使うための行動の科学を構築しなければならない」と説いたのだが................。