じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
サーバーの容量事情により、写真ファイルはこちらに移しました。 | タスマニア南部の動物園で見たタスマニアンデビル。この動物園にはコアラ、ウォンバット、ハリモグラ、ワライカワセミなど珍しい動物がたくさん飼われており、柵越しに触ることさえできるが、この動物だけは下手に指をいれると骨がくだけるほどに噛まれる恐れがある。大きく口を開けているのは、威嚇ではなく単にあくびをしているだけ。 |
【思ったこと】 _30111(土)[心理]行動随伴性ダイアグラム再考(1)「テーマパークに行く→面白い」、「授業に出席する→つまらない」では、行動の説明にはならない 卒論の提出締切まであと20日間となった。私のゼミでは、研究テーマや研究方法の選択は卒論生に任されており、仮に私の主義主張と異なる内容の論文であったとしても、
とはいえ、私のゼミでは、行動分析的な手法を用いる卒論が多い。そのことは大いに結構だと思うのだが、行動分析を標榜することが逆に災いして、素朴概念や通俗的解釈に引きずられた珍説が飛び出しやすく、頭を悩ませている。 その代表的なものが、「行動随伴性ダイアグラムに基づく分析」にまつわる誤解である。これは実験的に分析している限りはあまり問題がおこらない。なぜなら、随伴性を不適切に捉えていれば独立変数をうまく操作できず、必然的に誤りに気付かされるからである。問題が起こりやすいのは、インタビューなどで、対象者の言語報告に基づいて、ある種の問題行動、あるいは生きがいとなる行動の原因を探ろうというスタイルをとった場合である。 ここで、杉山ほか『行動分析入門』(産業図書)に基づいて、行動随伴性ダイアグラムとは何かを復習してみよう。18〜19ページに記されているように、行動随伴性とは ある条件の下で、ある行動をすると、ある環境の変化が起こるという、行動と環境との関係を示すものであり、随伴性ダイアグラムとは 行動随伴性を図示したもので、行動と環境との関係を分析する道具として使われる。基本的には、直前条件・行動・直後条件の3つの要素で表現できるが、他にもさまざまな環境要因を盛り込むことができるとして定義されている。 ここで十分に留意しなければならないのは、直後条件は環境の変化に言及されなければならないということ。その変化は原則として、出現または消失という形で客観的に観察可能であり、頻度や程度が量的に把握できるものでなければならない。この場合の変化は原則として外部環境の変化を意味するものであるが、なかには、「針で刺す→痛みが生じる」というように、生体内部で起こる変化が記述される場合もある。針で刺すこと自体は、皮膚に穴が開く、血が出るといった客観的な変化をもたらすが、それだけでは嫌子とは言えない。麻酔をかけられた状態では痛みが伝わらないからである。但しその場合でも痛みは主観ではない。じっさい、この種の痛みの発生や消失は、独立変数として制御できる。 随伴性ダイアグラムを用いた分析でしばしば陥りやすい誤解は、行動の結果として記述すべき部分に「面白かった」「楽しかった」「つまらなかった」「寂しくなった」といった感情の変化を入れてしまうことである。確かに感情は変化するであろうが、これは「行動とその結果」に付帯して発生してくるものであって、環境の変化とは到底言い難い。「テーマパークに行く→面白い」、「授業に出席する→つまらない」というような記述を許してしまうことは ●なぜテーマパークに行くのですか? 面白いからです。 ●なぜ授業に出ないのですか? つまらないからです。 と言っているのと同等であって、それで思考停止。何ら分析をしたことにはならない。 行動随伴性に基づく分析というのは、テーマパークに行って、そこでどういう行動が自発され、どういう結果が伴っていたのかを記述することである。例えば、絶叫マシンに乗ることによる加速度の変化が好子になっているのか、メルヘンチックな風景が好子なのか、みんながワイワイ楽しんでいることが好子なのかといった具合である。これらの違いが分かれば、一口に「テーマパークに行く」といっても、絶叫マシンに乗れるかどうか、平日の空いているときと土日の混雑している時のどっちが楽しめるか、といった結果の随伴のしかたによって、これから先、どういう時にどういうテーマパークに行くのかが予測できるだろう。 「授業がつまらない」というのも同様である。授業に出席した際に、どういう行動が強化されていないのか、どういう行動が弱化されているのかを明らかにしなければ情報的価値がない。 この話題に関しては、このほか、「随伴性の階層性」、「私的出来事の意味」、「随伴性は、なぜ面白いのかを説明できるか?」といった問題がある。次回に続く。 |