じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] タマスダレ(ゼフィランサス)。英語では「fairy lily」という、愛らしい名前がついている。ヒガンバナ科で、この白色種は秋のお彼岸の頃にヒガンバナとともに花をつける。





9月23日(月)

【ちょっと思ったこと】

急に涼しくなる

 毎朝6時頃の散歩の時、前日までは半袖ポロシャツ、短パンでOKだったのに、24日の朝は長袖ポロシャツ、長ズボンでも寒いくらいだった。暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったものだ。まんじゅう型の月がちょうど真西の空に、明るい太陽が真東にあり、すがすがしい朝だった。
【思ったこと】
_20923(月)[心理]小学算数の学力は低下したか?

 9月23日の朝日新聞一面(一部24面)に

同じ問題、20年前と今比べると正答率10ポイント低下/小学生6200人 東大が調査
小学算数東大調査 理解力低下くっきり


という記事があった。この調査は東京大学・学校臨床総合教育研究センターが、関東地方の小学生約6200人に実施した算数の学力テスト。20年前に行われた、全く同じ問題を使った調査結果と比べ正答率が10・7%落ちていたという。なおこのうち、29問は、今の小学生が学習しない事柄や、教科書の説明が簡素化された内容も含まれていた。しかし、98問は指導要領で位置づけが変わらず、教科書の扱いも同じであり、この98問に限っても正答率は67.2%と8%下がっていたという。

 以上が記事の要約だが、記事の一部には、あれっ?と首をかしげる事例が紹介されていた。例えば24面(岡山版)には「3000gは何kg/3kmは何cm」という大見出しがあり、「こんな問題の正答率が下がった」の中に正答率の変化が記されていたが、
Q おもさが3000g(グラム)の石は、kg(キログラム)単位であらわすと、何kgになりますか(3年生レベル)
【20年前の正答率84.5%→今回83.9%】
というのは、どうみても有意差のある減少とは思えない。同様に
Q 3km=□m=△cm あてはまる数を入れましょう(6年生レベル)
△cm 【20年前の正答率60.3%→今回56.9%】
というのもそれほど大きな減少とは思えない。こちらのほうは、むしろ、20年前であろうが、今回であろうが、「義務教育として理解させるべき問題の正答率が6割程度にすぎない」ということにこそ問題視すべきだと思う。

 あと、
1000円もって、くだものやにいきました。1こ□円のりんごを○こかって、おつりを700円もらいました。式にあらわしましょう(4年生レベル)
【20年前の正答率54.0%→今回37.0%】
という問題だが、さて、デフレとはいえ20年前よりは物価が上がっている今、果たして何個の林檎が買えるもんだろうか[←ま、式に表すだけだからどうでもエエんやろうが]。それと、遙かに問題なのは消費税の影響だ。私なども、例えば、「1個130円のリンゴを3個買いました。1000円札を出したらいくらお釣りが貰えるでしょう?」などと言われても即答できない。消費税導入によって、日常の買い物場面でお釣りの計算を確認できなくなったことは、算数を日常から隔離した世界へ追いやる一因になっていると思う。




※調査自体について他に考えられるアーティファクトを思いつくままに挙げておくと...
  1. どの学年の子も、1年から6年までの内容を網羅した同じ問題を、できるところまで解く。」とあったが、今回解答をする子どもたちの場合には、129問の中に学習していない問題が含まれていた。こうした「解けない問題」でひっかかって全体の正答率が下がった恐れはないだろうか。
  2. 関東1都3県の12市の公立小学校17校で1年から6年まで6228人に実施。....1982年に国立教育研究所(当時)が同じ地方の17市30校の5082人に実施したテストと同問で、対象とした17校は、この30校に含まれる。」とあったが、産業構造変化や住民の移動などがある以上、同じ学校で実施したということが「よく似た集団であった」ということの根拠には必ずしもならない。
  3. 「3kmは何cm」というような問題は単位についての知識が無かったためなのか、計算ができなかったためなのか不明。例えば、「1kmは1000m、1mは100cmです。では3kmは何cmですか?」という質問だったら答えられるのか?
  4. テスト結果のデータを分析したお茶の水女子大の耳塚寛明教授らは、たとえば3年生のうち、2年生の平均点より低い点の子どもがどの程度いるかの割合を、比較する学年のない1年生を除き、調べた。82年に国立教育研究所(当時)が実施した、同じ問題のテスト結果も、これと同じ方法で割合を算出した。両者を比較すると、2年生から順に(かっこ内は82年、%)、6.1%(3.9)、10.2%(4.7)、10.6%(10.5)、20.0%(13.1)、17.4%(16.9)となった。」とあるが、下級生の平均点より低い点数をとった上級生の比率が増えたということは必ずしも問題ではない。これをもって学力低下の証拠とするのではなく、むしろ、習熟度別のきめ細かい指導を充実させることが必要ではないかと思う。

 いずれにせよ、調査結果の一部が誇張あるいは曲解され一人歩きしないように注意をはらいたいものである。

【思ったこと(2)】
_20923(月)[心理]独断と偏見で選ぶ、今年の日本心理学会年次大会ワークショップ

 今度の9月25日から27日まで、日本心理学会第66回大会が広島大学教育学部で開催される。私自身は、この期間に各種会議の先約があり参加できないが、近場でもあるので、学生、院生にはぜひ参加するよう勧めているところだ。

 少し前までは、大会というと、スライドやOHPを使った口頭発表が主体であった。その後、1982年に国立京都国際会館で行われた第46回大会(主催校:京大文学部)で初めてポスター発表が導入され次第にその比率を増してきたが、今回は個人の研究発表はすべてポスター発表で行われることになっている。

 それと並行して多数開催されるのがシンポジウム、小講演、ワークショップである。特にワークショップは、会員の手で自主的に企画されるだけに、なかなか興味深い。手元にあるプログラム(ネット上からも見られます。但し、pdf)を見ながらいくつかピックアップしてみようと思う。
  • 【9/25】WS09 個人差はもう古い:個人差から多様性へ
    内容は分からないのだが、タイトルだけ見てもワクワクしてくる。
  • 【9/25】質的研究の「研究法」はどのように学ぶか
    最近、質的研究を行う卒論や修論が増えてきたのでぜひ聞きたいところだ。おっと、よく見たら、企画者はウチの講座の先生だった。
  • 【9/25】ヒューマン・アニマル・ボンド −動物を活用した治療と教育−
    最近、アニマルセラピーがますます注目されている。どんな話になるのだろうか。
  • 【9/25】「質的心理学研究」の最前線
    大御所のやまだようこ氏が登場するとあらば、聞き逃すわけにはいかない。
  • 【9/25】高齢者の回想をめぐって
    卒論・修論で高齢者にインタビューする学生が増えてきたが、過去の出来事について、高齢者がそれをどう回想するのか(特徴的なパターンはあるのか)、また、いまの生活にどう関連づけているのかということは、高齢化社会における心理学の重要なテーマになると思う。
  • 【9/26】−心理学における研究評価のあり方について−「心理学研究」におもしろい論文を掲載するために(2)
    こういうテーマで論議されることは大いに意味があると思う。もっとも、別段「心理学研究」に掲載しなくてもいいんじゃないかなあ。
 ほかにも興味深いテーマはいろいろあるが、私が参加するなら上記の中から選びたい。といっても、9/25にこんなに集中していたのでは困りますなあ。

今回のワークショップは、少し昔のイメージで言えば、同一タイトルについての連番発表(←同じタイトルに「その1」「その2」というように番号をふって、「組織的」に発表するもの)に近いものかと思う。1つの口頭発表会場を連番で占められると内輪だけの集まりになってしまう。別のテーマの発表者がうっかりその中に押し込まれると、ひどく場違いな雰囲気になってしまう。今回のように最初からワークショップとして組織してしまえば、あとは、健全な競争原理に基づいて一般会員の関心の度合いを測ることもできる。数の力だけがすべてではないが、関係者以外が集まらないようなWSは結果的に淘汰され消え去っていくにちがいない。

 余談だが、プログラムでは「サトウ タツヤ」氏のお名前がやたらと目立つ。面識があるので多少からかわせてもらうが、今回の指定討論者出現頻度ナンバーワンは間違いなくこの方ではないだろうか。こっそりリンクしておくぞ。→→→

Web日記の量だけだったら、ゼッタイ負けないんだがなあ。