じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 「ナチュラルハート」とか「ラブリー・リーフ」といった愛称で呼ばれているホヤが白い花をつけた。写真右は5月12日撮影。こちらに文章あり。しかし、あんまり葉が増えすぎると有難味が無くなる? [今日の写真]





8月27日(火)

【ちょっと思ったこと】

日本最南端で戸籍が作れる?

 多摩川や鶴見川に出没しているという国土交通省・関東地方整備局・京浜工事事務所のサイトにアクセスしたところ、実はここも管理していますという面白いページのあることが分かった。この事務所は、なっなんと、東京から1,700km離れた日本最南端の島・沖ノ鳥島も管理しているというのである。

 沖ノ鳥島は日本最南端であると共に、日本唯一、北回帰線より南にある領土でもある。経済水域を確保する上でもゼッタイに失ってはならないポイントだ。

 ところで、このページによれば、この島には「東京都小笠原村沖ノ鳥島1番地と2番地」という番地が割り振られているという。番地が存在するのであれば、この島に戸籍を作ることができる。結婚して新しい戸籍を作る時に、この日本最南端で珊瑚礁に囲まれた楽園を選ぶというのはどうだろうか?(小笠原村役場まで戸籍謄本を取り寄せる時に、郵送代と日数がかかるという不便さはあるだあろうが....)。

_20827(火)[心理]日本行動分析学会第20回年次大会(5)スキナーの『罰なき社会』論と、強制収容所のカポ

 2日目夕刻には、上田邦義・日本大学大学院教授による「シェイクスピアと能と行動分析」と題する興味深い特別講演が行われた。講演時間はわずか1時間であったが、きわめて密度が濃く、おまけに、『英語能・ハムレット』の実演(主演:上田教授、能管:小野浩一・日本行動分析学会会長)まであり、大いに堪能した。

 上田氏は、まず、昨年9月にアメリカで起きた同時多発テロにふれ、多くのアメリカ人が報復攻撃を支持する中で、少数ながら異議を唱えた有名人として、チョムスキーと坂本龍一氏の名前を挙げられた。そしてもし存命であればスキナーも報復に反対したであろうと、次の一節を引用された。
.....When we look at the world today with its war, terrorism, and violence in so many places, a non-punitive society seems "utopian" in the sense of impossible And, indeed, we are not likely to arrive at a peaceful world in the immediate future by applying the experimental analysis of behavior to international diplomacy. In any case, peace in the simple sense of the absence of violence is no solution to the problem. Like the permissiveness which some countries have recently explored it offers no effective alternative to punitive measures. Perhaps our best opportunity will be to start below the level of international affairs. If, because of positive consequences alone, people can acquire knowledge and skills, work productively treat each other well, and enjoy their lives, those who deal with international affairs may be able to use non-punitive measures more effectively. It is the unhappy and the frightened who resort to war. International negotiations among happy nations should be more successful. .............
 じつはこの段落は、私が各種論文や授業でしばしば引用する
When we act to avoid or escape from punishment, we say that we do what we have to do, what we need to do, and what we must do. We are then seldom happy. When we act because the consequences have been positively reinforcing, we say that we do what we like to do, what we want to do. And we feel happy. Happiness does not lie in the possession of positive reinforcers; it lies in behaving because positive reinforcers have then followed. The rich soon discover that an abundance of good things makes them happy only if it enables them to behave in ways which are positively reinforced by other good things.
という段落(下線は長谷川による)の直前に位置するものであり、スキナーが慶應義塾大学で1979年9月25日に行った講演録として1990年発行の『行動分析学研究』(5巻, 98-106)に掲載された論文から取り出されたものであった。そういえばこの論文のタイトルは『The non-punitive society. 』というものであった。言語行動をめぐって激しく対立したスキナーとチョムスキーであるが、もしスキナーが存命であればひょっとして、スクラムを組んでアフガン報復爆撃に反対していたかもしれない。




 ここで少々脱線するが、宿泊先のホテルで当日(8/23)の夜に、「カポ」を取り上げた番組を視た(NHK-BS)。「カポ」というのは、ナチスドイツの強制収容所で、囚人長やブロック長として、結果的に虐待や虐殺に荷担してしまったユダヤ人たちのことである[]。ナチスは直接ではなく、収容者のユダヤ人たちを「カポ」に任命して間接支配を行った。「カポ」の中には、動きの遅い囚人を金属棒で殴りつけて骨折させたり、多数の女性を裸にして長時間不自然な状態で跪かせて苦痛を与えるといった虐待を行った者もあった。もし、ナチス親衛隊が日常的に虐待を繰り返せば、ユダヤ人たちは一致団結して決死の反乱を企てたに違いない。しかし、囚人たちの中に中間支配者と服従者の階層を作ることによって、憎悪の矛先は囚人の内側に向けられることになった。
8/28追記]こちらの映画紹介によれば、「カポ」=「ドイツ人の刑事犯」とされているが、今回番組ではそのような説明は無かった。番組の紹介サイトはこちら。但し、期間限定の模様。

 カポの生き残りの一部は戦後にイスラエルで裁判にかけられることになった。しかし、虐待や虐殺荷担の事実があったわりには、多くは無罪、あるいは、そもそも被告にすらならなかったという。ドイツやオーストラリアに移住したカポも居た。その背景には、「同じ状況に置かれたら自分でもそうせざるを得なかったのではないか、という判事たちの迷いがあった。番組でも語られていたが、

●絶望の中にあって、少しでも生き延びる道をさぐるのか

それとも

●他人を犠牲にしてまで生きながらえるのか

という迷いが、判決にも反映したようだ。私なども、平時には「自分は、他人を犠牲にしてまで生きながらえるような人間ではありたくない」と明言できるが、収容所送りになった時にその信念を貫けるかどうかは自信が持てない。




 カポの行動、あるいは強制収容所内でユダヤ人たちが支配されていった事実を見ると、人間は罰的に統制されやすい動物であることが分かる。つまり「罰的統制が有効かどうか」という議論だけをするならば結論ははっきりしている。問題は、そういう苛酷な統制が続くと、支配する側も服従する側も、もはや人間ではなくなってしまうという恐ろしい結末にある。だからこそ、罰的統制は否定されなければならないのである。

 なお、念のためお断りしておくが、一般に我々が「罰的統制」という中には
  1. 行動のあとに嫌子を提示することでその行動を弱める(嫌子出現随伴性による弱化)
  2. 行動のあとで好子を除去することでその行動を弱める(好子消失随伴性による弱化、「ペナルティ」など)
  3. その行動をしないと嫌子が提示される(嫌子出現阻止随伴性による強化、「回避」)
  4. その行動をしないと好子が除去される(好子消失阻止随伴性による強化、「仕事を完成しないとクビになる」)
というようにいろいろな随伴性が含まれている。それらの中には
  1. 目的がどうあれ、ゼッタイに使ってはいけない方法
  2. 差し迫った目的を達成するため、緊急避難的に用いることが許される方法(例えば、激しい自傷行為を緊急避難的に弱化する)
  3. 可能な限り転換をめざすべきもの(「働かないと食えないという好子消失阻止の随伴性」を「働くという行動に必然的に伴う好子で行動内在的に強化」に転換する)
  4. 自己管理の一環として、自分自身を好子消失阻止随伴性に晒してみる(「ダイエットしたらご褒美」ではなく「ダイエットしなければ何かを失う」という義務的な随伴性に晒さないと体脂肪を減らすことはできない)
というものがあり、適用のしかたや弊害については、今なお点検を続けていく必要があることを強調しておきたい。

 時間が無くなったので、本題の「能」についての感想は次回以降に。