じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] ゴンパの壁画として描かれていた歓喜仏。その迫力に度肝を抜かれた。





8月26日(月)

【ちょっと思ったこと】

2種類のお札(または硬貨)だけで買い物ができるか

 毎日補習に通っている息子(高2)が
どのような負でない2つの整数mとnを用いても
χ=3m+5n
とは表すことができない正の整数χをすべて求めよ。
という問題をやっていた。この問題は昔、この日記で取り上げたことがあるはずだと検索をかけたところ2000年2月25日の日記がヒット【河合塾の解答例がこちらにあります】。さっそく印刷して、「どうや、おとうの解法のほうがエレガントやろ」と自慢したところ、翌日になって、今度は一般化された問題を解いてみろと言ってきた。
a,bが互いに素のとき
(a-1)(b-1)以上の自然数は
ax+byの形で表すことができることを証明せよ(但し、x,yは0以上の整数)
うーむ。余計な自慢をしなければよかった。

 ネットでちょっとカンニングしたところ、この種の類似問題は整数論の入門書に紹介されており、例えば
  • 【ゴールドバッハの問題】6以上の任意の自然数は常に3つの素数の和に表せるか
  • 2つの素数の和で一定以上の大きさのすべての自然数を表せるか
というような問題もあることが分かった。

 この種の問題は背理法でも解けるのだろうが、より実用的観点から言えば、

●一定金額を2種類の紙幣(または貨幣)で支払うとき、それぞれ何枚ずつ用意すればよいか?

というアルゴリズムを示すことのほうが大切であるように思う。「○○で表せない数があったと仮定すると、××となるはずだがこれは矛盾する」とか「○○から××の範囲には、必ず1つ存在する」とか「○○が満たされれば、以後はすべて××を満たす」というような証明でも数学的には正解となるが、実際にどう支払えばよいのか分からないと実用的価値が無い。

_20826(月)[心理]日本行動分析学会第20回年次大会(4)「行動」とは携帯電話?/オペラント、レスポンデントは中国語で何というか?

 2日目午後は、日本行動分析学会20周年を記念して「アジアにおける行動分析学の現状と今後の課題」というシンポジウムが開催された。司会は愛知大学教授の浅野俊夫氏、話題提供は、台北師範大学助教授のWei-Chen Lan氏、ABA中国支部代表のDavid Peng氏(現在、米国在住)、韓国行動分析学会副会長・中央大学校教授ののJoon-Pyo Hong氏、それと、日本行動分析学会前会長・吉備国際大学教授の小林重雄氏であった。

 それぞれの話題提供を拝聴して強く感じたのは、東アジア地域では、行動分析の基礎原理あるいは哲学としての徹底的行動主義にはあまり関心がなく、もっぱら、発達障害児にとって有用な訓練を行うためのツールとしてのニーズが強いということだった。この事情は、東南アジアや中央アジア、西アジア諸国でもおそらく同様であろう。じっさい、基礎的な研究に予算をつぎ込むほどの余裕は無いのかもしれない。

 となると、多少不本意ではあっても、まずは、応用行動分析を前面に出してその有効性、有用性を強調することのほうが普及に繋がる。単一事例法でも群間比較でもよいから、とにかく効果のあったことを客観的に示していけば政治家も教育界も納得してくれるはずだ。

 ところで、日本、中国、韓国と言えば、漢字文化圏という点で深い絆がある(ハングル主体の韓国で現在どの程度漢字が使われているのかは分からないが)。そこで、英語のテキストを翻訳する際にもできる限り、共通の漢字表記を用いることが推奨される。この点は以前から強い関心があったので、さっそく質問させていいただいた。

 まず、これは2000年12月に台北で行われた国際会議のタイトル:

●International Congress on Behaviorism and the Science of Behavior(行為主義曁行為科学国際會議)

にも掲げられおり、長年疑問に思っていたのだが、中国語では「Behavior」は、「行動」ではなく「行為」と訳さないとしっくりこないようだ。念のため『新明解』で意味を確認したところ

●行為:人間がなんらかの目的で、ある結果を伴うことをすること
●行動:[動物一般が]何かをしようとして、実際にからだを動かすこと。

というように区別されていた。行動分析でいうところの行動には、目に見える筋肉反応を伴わないような行動(例えば一部の言語行動)も含まれるし、行動随伴性という観点から言えば、「ある結果を伴うような行動をすること」が強化の前提となっている。となれば、むしろ日本語でも「行為主義」あるいは「行為分析」としたほうが誤解が避けられたようにも思える。「行動主義」という訳語は、おそらくワトソンを紹介する中で初めて使われたものと思われるが、どなたの訳が定着したのだろうか。

 ではそれ以外の訳語はどうだろうか? 日本語で強化子あるいは「好子」と訳されるreinforcerは「増強物」となるらしい。それから、今、上に述べた「行動」だが、台湾では、名刺に携帯電話番号を記す際に「行動 1234-5678」という使い方をするという。これは驚きであった。

 当日夜の懇親会で、台湾の先生に「中国語でオペラントは何と言いますか?」と英語で尋ねたところ、「歌劇」と言われてビックリ。いくらなんでも「オペラント行動」が「歌劇行為」にはなるまいと聞き返してみたところ、どうやら、オペラントとオペラを取り違えられたようだった。で、結局聞き出した訳語は

●オペラント:操作制約
●レスポンデント:古典制約

というものだった。上記で「制約」がついていることからもわかるように、「オペラント行動」の場合は、「操作行為」ではなく「操作制約行為」と訳さないとしっくりしないらしい。「レスポンデント=古典」というのは、パフロフ型の条件づけが英語で「classical conditioning」と呼ばれていたことに起因するもののようだが、せめて「応答制約」とでも訳せないものか、次回お会いした時にさらに尋ねてみたいと思っている。