じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典

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[今日の写真] 空から見たお台場。岡山から羽田行きの飛行機は、ANAの場合は東京湾の「海ほたるの」真上を通って南側から着陸する。今回は初めて利用したJALの場合は、TDL、TDS、お台場の南側を通って北東側から着陸した。なお、着陸直前はすべての電子機器の使用が禁止されているので、デジカメやビデオによる撮影はできない。念のため。





8月22日(木)

【ちょっと思ったこと】

本島の山火事

 NHK22時のニュースで、香川県本島の山火事のニュースを知った。すでに、島の約20%、150ヘクタールが消失しているという。

 本島は数年前まで、岡大の福利厚生事業の一環として「海の家」が開設されていた所だ。我が家でも何度か海水浴に行ったことがある(いちばん最後に行ったのは、たぶん1998年8月)。しかしその後、利用者が少なかったことと、岡山県側からのフェリーが廃止されたことに伴って、海の家のほうも廃止。近くにあったリゾートホテルもだいぶ前に閉鎖され、訪れる観光客はだいぶ減ったのではないかと思う。現在の人口は750人。間近に瀬戸大橋を眺められるものの、近くて遠い島になってしまった。

 それだけに、素朴な雰囲気が保たれているとも言えるが、今回のような大規模な山火事となると、消火のための人手にも機動力にも限界が出てしまう。一刻も早い鎮火を願いたいところだ。




麦客(まいか)

 宿泊先のホテルでNHK「麦客〜激突する鉄と鎌〜」を視た。中国では毎年5月、河南省の豊かな麦の刈り取り作業をするために、麦客(まいか)と呼ばれる出稼ぎ労働者がやってくる。従来は、先祖伝来の鎌一本と着替えだけをかついだ老麦客(ろうまいか)だけが活躍していたが、最近では、「先富起来」政策のもとで富を得た河北省の農民たちが、時速20kmのコンバインに乗り込んでやってくる。彼らは鉄麦客(てつまいか)と呼ばれている。

 番組では、機械力を誇る鉄麦客たちのしたたかさと、次第に働きの場を追われながらも、「俺たちは自分の力で稼いでいるんだ」、「必死で働いて金を持ち帰る」という老麦客たちの奮闘ぶりが対照的に描かれていた。ちなみに、番組で紹介された老麦客たちの賃料は一畝30元(かつては50元ぐらいだったが、鉄麦客の進出で値切られている)、一日働きづめでも45元程度、一シーズンの稼ぎは700元程度になるということだった。

 今回のチベット東部旅行で一番高かった買い物は花の図鑑300元、あとは羊皮の帽子が20元、妻や娘に買った小物も15元から30元程度。レートは1元が14〜15日本円だったので、安い安いと、あまり値切らずに買ってしまったが、老麦客たちが炎天下で必死で稼ぐ30元のことを思うと、あまりにも金づかいが荒すぎたと複雑な気持ちになった。

_20822(木)[心理]日本行動分析学会第20回年次大会(1)20周年記念講演

 神奈川県藤沢市の日本大学生物資源科学部で、日本行動分析学会第20回年次大会が開催された。初日の9時50分頃には羽田に着いていたのだが、乗り換えなどに手間取り(羽田〜京急〜上大岡〜横浜市営〜湘南台〜小田急〜六会日大)、会場に到着したのは結局11時すぎになってしまった。

 最初に拝聴したのは、山口薫・東京学芸大学名誉教授による「応用行動分析:わが国における発展と課題」という演題の記念講演であった。行動分析というと創始者のスキナーの主張ばかりが取り上げられがちであるが、日本に好意的に紹介されるきっかけとなったのは、むしろビジューのほうが先かもしれない(スキナーの著作自体、たとえば『学習理論は必要か?』やファスターとの共著『強化スケジュール』は、吉田先生などによって1950年代から批判的に紹介されていたと記憶している)。ビジューのもとには、その後も多数の日本人研究者が集まり、特に、特殊教育の分野の研究と普及に大きな貢献があった。

 特殊教育の分野でなど応用行動分析の手法が大きな成果を上げていることは確かであり、例えば、ダウン症の幼児にポーテージ法を週に40時間実施した群は、週10時間、あるいは全く実施しなかった群に比べて、SQを大きく伸ばす効果があるという。しかし、万能な効果をもたらす手法というのは実証されていないようだ。あくまで、それぞれの対象者の特性を考慮した、個体重視の介入が求められているということであろう。今述べた効果が、青年期や大人になってからも持続されているかどうかについての追跡調査が今後の課題になっているとのことだ。




 次に、佐藤方哉・帝京大学教授(慶応大学名誉教授)による、「日本行動分析学会20年のまとめと今後の展望」という記念講演が行われた。講演ではまず、この学会が、「行動分析研究会」としての会合や、世話人会の積み重ねの中で成立した経緯についてふれられた。次に、今後のことについて
  • 学問的発展
  • 社会的発展
という2つの側面から種々の検討課題が提唱された。

 学問的な課題として挙げられた中でなるほどと思ったのは、「用語の使用を厳密にしよう」という御指摘であった。これは決して行動分析だけの問題ではない。心理学一般の用語においても、日常語と学術語が厳密に区別されていなかったり、同じ用語が2通りの意味に用いられているなどの混乱がある。具体例として挙げられた、モチベーション、弁別刺激、消去、セルフ・コントロールなど、確かに問題があるようだ。

 備忘録代わりに1つだけメモしておくと、「セルフ・コントロール」という用語は
  • 自分の「ある行動」により自分の「他の行動」を制御すること
  • 直後に少ない強化がもたらされる行動ではなく、遅延後に大きな強化がもたらされる行動
という2つの意味で用いられるが、両者は本質的に異なった概念と言えよう。後者のほうは、ダイエット(目先の誘惑に負けずに減量する)、禁煙(目先の欲求に負けずに、健康を守る)長期にわたる努力(目先の成果は上がらないが、ちりも積もれば山となって大きな成果が期待できる)といった行動をいかに形成するかという差し迫った課題が多いので注目されがちであるが、それらは必ずしも自分一人でコントロールすべきものでもない。強いて言えば、「セルフ・マネジメント」に統一すべきであろうか。

 このほか、学問的な課題に関連して、日本でなければできない研究を推進する必要が協調された。私自身が行った『3歳児における漢字熟語の読みと生成』(行動分析学研究,1990, 4巻, 1〜18.)が実践例の1つとして挙げられたのはまことに光栄であった。

 行動分析学の社会的普及のためになすべきことに関連して、「技法」、「知見」、「理論的枠組としての行動随伴性」、「方法論としての単一事例法」、「哲学としての徹底的行動主義」という階層型の「普及パック」のようなもの(←ラジカルに言えば、武装セット)が提唱された。このうち、特に哲学面での普及が求められるとのこと。そのためには、スキナーの古典を正しく紹介することや、私的出来事や言語行動に関する主張を正確にとらえることがぜひとも必要ではないかと感じた。

8/25追記]上記の御講演のうち、佐藤先生のパワーポイントファイルは、こちらに公開されていた。