じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 岡大・東西通りのハナミズキ。過去日記を調べたところでは、例年は4月20日すぎからの開花となっている。この調子だと、梅雨や猛暑はどうなるのか心配。





4月14日(日)

【思ったこと】
_20414(日)[一般]がんの新薬、安全なら直ちに発売を

 4月10日から11日頃の各種報道によれば、武田薬品は、がん遺伝子の増殖を抑制する新薬「TAK165」を開発。このほど、米サンフランシスコで開催中の全米がん学会で開発状況を報告し、米食品医薬品局(FDA)から審査を優先的に受けられる「ファストトラック(優先審査)」に指定されたと発表した。発売は2008年ごろになるという。

 4/10の「NIKKEI NET」や4/11朝日新聞記事を総合すると、これまでのがん治療薬はがん細胞への血液の流れを止めるといった間接的な療法の薬剤が主流であった。それに対して今回は、がん細胞特有の遺伝子の構造、性質が分析・解明され、がん細胞を増殖させる体内物質チロシンキナーゼを働かないようにする新薬が開発されたという。

 武田は、日米欧で健康な人に新薬を投与し、安全性などをみる臨床試験を始めている。今後、乳がんや肺がんなどの患者に投与する臨床試験などをへて、、4年半で承認申請までこぎつける方針という。

 この種のニュースでいつも思うのだが、新薬の臨床試験や承認にはどうしてこんなに年月を要するのだろう。60歳の時に胃癌で死亡した私の母のことや、いま闘病を続けている知人のことを思うと、形式を整えるのは後回しでもいい、とにかく服用を希望する患者には治験の名目でもよいからどんどん薬を提供し、すこしでも病気の進行を食い止め、命を救ってもらいたいものだと思う。

 新薬がそう簡単に承認されないのは、医療保険や薬価制度のしがらみがあるためとも考えられるが、純粋に科学的な見地に立つならば、検討されなければならないのは次の点である。
  1. その薬は安全であり、かつ治療に有効である。
  2. その薬は安全だが、有効でない。
  3. その薬は副作用など有害であるが、治療上の有効性も認められる。
  4. その薬は副作用など有害であり、しかも治療上の有効でない。
このうち1.が検証されれば直ちに発売、2.は無駄であるので薬としては不認可(但し、医療上の効果を宣伝しない限りは、民間療法として用いられるかも)。3.の場合は、一般には不認可だが、きわめて重い病気の治療に有用であれば副作用の弊害とを天秤にかけた上で医師が慎重に処方する場合があり、4.は単に有害なだけなので行政的に禁止措置をとることになるだろう。

 しかし、風邪薬や水虫の治療薬とは違って、がんの治療薬の認可は人の命をダイレクトに左右する問題である。十分な検証ができない段階でも、とりあえず安全性が確認できていて、生理的な作用がある程度解明されているならば、どんどん使用を認めればよいではないか。その上で、その薬を使った患者の症例が増えれば、疫学的にも延命効果が傍証できるし、また、その薬がどういう症例で効き目がありどういう時には役に立たないのか、有効範囲を同定することにも役立つ。

 それにしても、これから現実に行われる臨床試験というのはどういうものなのだろうか。もしかして、
100人の患者をランダムに50人ずつに分け、当事者(患者および医師・看護師)には分からないようにして、半数には新薬を、残りの半数には偽薬を投与し、数年後の延命効果を調べる。統計的に有意差があれば有効性を確認。
などという群間比較をやるのではあるまいなあ。そういう試験で、対照群に割り当てられた患者は「薬効の甲斐無く」、早期に命を失うハメになるのだ。これほど残酷な人体実験もあるまい。

 仮に上記のような臨床試験をへて公的に承認されたからといって、その薬がすべての個人に効くとは限らない。けっきょくは、医師が患者の治り具合を診ながら、単一事例実験計画のような形で処方をしていくのではないか。

 繰り返しになるが、生理的な作用について十分なデータがあり、かつとりあえずの安全性(相当の副作用があっても命を救う効果があるならそちらを優先)が確認された段階では、かんの新薬は形式主義にこだわらず(正式承認までの期間を限って)仮使用を認めるべきだと思う。仮に「薬効の甲斐無く」亡くなられたとしても遺族にとっては「最善の治療を受けた」と諦めがつく。反面、「新薬の承認が手間取ったから手遅れになった」というのでは諦めきれない。柔軟な対策を行政に求めたいと思う。