じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 岡大西門を入ってすぐ左側にある老朽施設が取り壊されることになった。大学構内では数少なくなった旧日本軍の施設であり、法経の学生集会所などに使われていた。この写真撮影後まもなく足場が組まれ、シートがかけられた。右後ろにあるのは文化科学研究科棟と放送大学施設。





3月4日(月)

【思ったこと】
_20304(月)[心理]第11回エコマネー・トーク(2)エコマネーの原理と三者以上の互助関係

[Image]  昨日の続き。キャンパス発エコマネーの事例報告にふれる前に、エコマネー一般についての私の考えを述べておきたいと思う。ついこのあいだまで、私は、エコマネーは般性習得性好子【注:「好子」(コウシ)は行動分析学用語。「正の強化子」と同義】の特殊形態(トークンあるいは代用紙幣)であろうと思っていた。しかし、加藤敏春氏の著作や、エコマネートークに参加しているうちに、仮にトークンであるにせよ、人と人との交流という面で特別のネットができあがっていることに気づいた。

 例えば左上の図は、二人の間で「観葉植物の育て方を教える」というサービスと「ピアノの弾き方を教える」というサービスが交換されていることを示す。しかしこのケースではエコマネーは全く不要である。両者の間では双方向のサービスが同程度にやりとりされていればよいのであって、エコマネーのようなものは必要ない。夫婦間でエコマネーが必要ないこともこのグラフから見て取れる。

[Image]  では、右図のように、A、B、C3者の間で
  • AはBにパソコンの活用法を教える
  • BはCに英語表現について指導する
  • CはAにピアノの弾き方を教える
という「3すくみ」関係がある時はどうだろうか。この場合、図以外のサービスはお互いに必要としていないと仮定する(Aは英語表現に熟達、Bはピアノが上手、Cはパソコンを使いこなすことができるので他者からのサポートを必要としていない)。このような双方向のサービスが成り立たない場合でも、「親切」とか「仲良し」という抽象概念に価値を与えることで一定の互助関係を生み出すことはできる。しかしエコマネーを導入すれば、それぞれのサービス行動に対してエコマネーを支払うという強化随伴性が成立するので、格段の活性化がはかれるものと期待される。

[Image]  左下の図はさらに特殊なケースであり、ここではA、B、C、Dという4者のあいだで4通りのサービスが提供される。それぞれのサービスに対してはエコマネーが支払われるものとしよう。ここで興味深いのは、AとB、およびCとDの間では何の関わりも存在しないことだ。犬猿の仲であってもいい。にも関わらず、4者はサービスとそれに対するエコマネー支払いによって全体で互助関係を維持し、コミュニティを形成しているのである。

 以上の考えはあくまで長谷川の思いつきによるものである。最後に、このモデルについての留意点をいくつか。
  1. 今回のエコマネートークのディスカッションの中で、ある質問者が、「お金が使えることで、今まで肉ばかり食べていた人が魚を食べられるようになった」という例を出したところ、加藤氏は、「いや、最初のお金は、肉と魚の交換のためではない。コミュニケーションツールとして登場した。エコマネーの『マネー』という呼称は、コミュニケーションツールとしての原点に戻れという意味だ」と言っておられた。ここにあげた諸関係もまさにそういうことを意味するのだろう。
  2. エコマネーは単なる般性習得性好子ではなく、「私がこういうサービスをすれば、別の機会に、こういうサービスを受けることができる」というルール支配行動の具体化であると考えることもできる。つまり、エコマネーを受け取ること自体によって強化されるのではなく、強化機会の保証書のようなものかもしれない。
  3. 今回のような互助関係モデルでは、「課題解決型」や「協働」への発展的移行が説明できない。今後修正を必要とするかもしれない。
  4. 上記の図では、「サービスを受けること」を好子として扱ってきたが、「サービスを提供すること」自体にも行動内在的な好子が含まれている。それゆえ、例えば、昔の話をする人は、話をしたことに対してエコマネーを受け取る一方、話をする機会を与えてくれたことに対してエコマネーを払おうという気持ちになるのである。
次回に続く。