じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] アヤメ。新緑とのコントラストが美しい。



5月9日(水)

【思ったこと】
_10509(水)[心理]しごと、余暇、自由、生きがいの関係を考える(16)IT版「裸の王様」

 岡山県内の家庭に無料配布されている某生活情報誌(5/11付)に、近未来において、インターネットと家電とロボットが結合するという記事があった。高名な評論家による講演会の内容を紹介したもので、それによれば、森・前総理の最大の仕事は昨年秋に「IT基本法」を成立させたことにあり、いずれ歴史教科書にもその功績が紹介されるであろうという。高名な評論家はさらに、近未来の家庭に起こる変化として
  1. ロボットに「今晩パーティーがあるからビール20本、注文しておいてくれ」というと、そのロボットがネット冷蔵庫にそれを伝え、ネット冷蔵庫は契約しているコンビニかスーパーへ注文、スーパーからトラックでビールが運ばれてくる。
  2. ロボットに「5チャンネルでこういう番組があるから録画しておけ」というと、テレビにつないでくれる。
というものを挙げておられた。

 森・前首相が歴史教科書に残るほどの偉業を成し遂げたかどうかは後世の評価にお任せするとして、上記の例はいただけない。

 1.の例では、インターネット普及により「あなた自身→ロボット→ネット冷蔵庫→スーパー」という発注経路の便利さが説かれているようだが、そんな面倒なルートをたどるぐらいだったら、直接酒屋さんに電話をすれば済むこと。わざわざロボットを介さなければならない必然性は無い。

 2.の事例は、「番組の予約録画操作が煩わしいので、ロボットに代行させる」という発想のようだが、Gコードなどで予約操作をすることと、ロボットを操ることとどっちが煩わしいのか、という疑問が残る。番組著作権の問題さえクリアされれば、今後はむしろ、
  • 電話一本で録画を代行するサービス
  • すでに放送された番組の中からもう一度見たい部分をネットで送信してもらうサービス
のようなものが普及していくものと思う。

 このほか、この高名評論家は、「全ての家電製品がデジタル化し、ネットで結ばれれば、膨大な家電の置き換え需要が生まれる。」と述べているが、それによって不用となった粗大ゴミはどう処理されるのか、そのことのほうがむしろ心配だ。また、家庭内ではAIBOのようなペット型ロボットが言いつけどおりに動くことの意義を強調しておられるようだが、家庭内で癒しとなるのは、むしろ、必ずしも言いつけどおりに動かない生身のペットのほうではないか。

 「IT革命」については、昨年の9月29日の日記や、10月12日の日記で、考えを述べたことがある。そう言えば、10月12日の日記は、同じ生活情報誌に登場した竹中平蔵氏の講演録をネタとしたものであった。

 日記でも何度も書いているように、私は決してIT革命主義者ではない。これまで強調してきたことを再録すると、
  • 「手間のかかること」をすべて機械に代行させることは、必ずしも生きがいの向上にはつながらない。「手間をかけること」自体に内在する喜びを再認識し、人間が環境に能動的に働きかける機会を保障することのほうが大切。
  • いまのIT革命論議では目先の利便性や景気回復への貢献度ばかりが強調されているだけであり、それによってどういう人間が作られていくのかについての本質的な議論は後回しにされている。
  • 生身の人間どうしのふれあい、実体への働きかけ、特に地球の自然環境へのふれあいが損なわれていくようであれば、非常に危険。生身の人間の住む町にゲーム感覚で核ミサイルをうちこむような世代が生まれないとも限らない。
 最後に即興で作った「IT版裸の王様」を披露させていただく。
新しい物好きの王様が居た。遠い国からIT技術者がやってきてその利便性を説く。すっかり気に入った王様は、馬型のロボットを作らせた。このロボットは、王様の声紋を認識した上で、音声入力により自由に動かすことができる。また、打ち上げられた専用の人工衛星によるナビゲーションが可能。
完成を祝い、王様はさっそくその馬型ロボットに乗ってパレードに出た。沿道の国民はみな口々にその性能を褒め称える。ところが、しばらく進んでところで突然動かなくなった。沿道の人々の歓声があまりにも多く、音声識別システムがパンクしてしまったためであった。
それを見ていた少年がつぶやく。「あんなロボットなんて何の役にも立たないや。ボクのロバのほうがよっぽど利口だ!」
【ちょっと思ったこと】